加速する高齢化社会のなか、「おひとりさま」と呼ばれる単身で暮らす高齢者も増え続けている。2009年に内閣府が60才以上の高齢者を対象にした調査では、単身世帯の65%が「孤独死を身近な問題」と感じていたことが明らかになるなど、おひとりさまにとって、“死”が大きな問題になっている。
そんななか、“死”をひとつのきっかけにして、つながりを見出したおひとりさまもいる。
東京都町田市にあるNPO法人「エンディングセンター」は、町田市内の霊園に「桜葬墓地」を開設する。「桜葬」とは外柵や墓石を設けず、遺骨を土中に埋めて樹木を墓標とする「樹木葬」の一種で、桜の木をシンボルとすることから名付けられた。「桜葬」用のなだらかな土地は細かく区画分けされ、希望者は各々の区画を購入する。こうして同じ土地内でともに永眠する他人のことを「墓友」と呼ぶ。
都内在住の女性Nさん(仮名・67才)は4年前、がんを患った夫とともにはいるお墓を探しているとき、「桜葬」を知った。房総半島や横浜市街が一望できる風景や穏やかな地面に立つ桜の木にひかれ、夫と合わせて区画を購入した。
「『桜葬』を知り、なんて素敵なんだろうとすぐ購入を決めました。もともと、“死んだら土に返ればいい”と思っていたので」 (Nさん)
2年前の夏に夫が他界し、現在はひとり暮らし。Nさんは墓友仲間が集うサークルの「気功の会」に所属し、月1回の集いを楽しみにする。
「同じ区画で眠るかたたちなので、お互いに死についてもオープンに話しています。いまは、死ぬまでは元気でいようと足腰を鍛えています。死んだらいろいろ迷惑がかかるので、すでに遺言を書いて司法書士に死後のことを相談しています」(Nさん)
おひとりさまで死後のことまで決めていても、いまは人とつながることが大事と笑う。
「往復3時間かけて集会に通っていますが、いつもとても楽しみ。高齢者がひとり暮らしで引きこもりになってはダメで、外とのつながりが大事です。多少は緊張感を持って誰かとお話ししないとね。こういう行動は女のほうが得意かも。男性は過去の肩書に固執してなかなか心を開けないというけど、女のほうが度胸があるのよ」(Nさん)
都内に住む女性Tさん(仮名・79才)は30年前に夫を亡くした。夫は実家の墓にはいったが、お参りに片道3時間以上かかる。6年ほど前に「桜葬」を知り、もともと樹木葬に興味があったことからすぐに夫婦での購入を決めた。
「『夫と一緒の墓にはいりたい』という気持ちで遠いお墓にお参りしていましたが、年を取ってそれも大変になりました。夫の実家に無理をいい、改葬してもらうことができたので、一緒に桜の木の下にはいることができます」(Tさん)
とはいえ、親族で賑やかにお参りする田舎と違い、町田でひとりきりの墓参は寂しかった。「将来、一緒の墓に眠る人と生きてるうちから仲良くなれればいいな」と考え、得意の俳句を生かして句会を開くことに。すぐに「墓友」が集い、現在はお墓参りのついでに敷地内で月1回の句会を行う。
「全然知らない人たちだったけど、同じお墓を望んだわけで気心が合います。参加者は60才以上。句会はいつも楽しく、『お墓参りか句会かどっちがメインかわからない』なんて笑い声も聞こえます」(Tさん)
※女性セブン2012年2月9日号