竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「訪問買い取り業者に売った物を取り返したいのですが」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
訪問販売ではなく訪問買い取りの問題です。貴金属業者を名乗る人物が一人暮らしの母の家に来て、金やプラチナ製品を安価で買い取って行きました。「東日本大震災の義捐金になる」といわれたので割安でも売ったそうです。偽の業者だと思われるため、品物を返してもらいたいのですが。
【回答】
偽の業者とのことですが、貴金属商ではなく、義捐金の話も嘘であれば売買契約の有効性が問題です。貴金属を専門に取り扱う能力もなく、有利に処分できる市場も知らない人物が、そのような能力等を持っているとお母さんに思い込ませた上、真意は義捐金に使う気もないのに、被災地に役立つとお母さんを騙し、安値で買い取ったのは詐欺です。
宝石の売買契約はお母さんの誤解(錯誤)に基づくもので無効であり、売った商品の返却や、転売して返せない場合には適正に評価した額を基準にした金額の支払いを求めることができます。
ただし、業者の所在の把握と嘘の証明が必要です。しかし、居所不明の業者では、対処のしようがなく、被害者多数の詐欺の可能性もあるため警察に相談すべきでしょう。
また、所在がわかっても、証拠がないと取引自体や買い取り時の話をとぼけられるかもしれません。契約書などで宝石の代金が相当割安であることが証明できても、多くの被害者から騙し取った宝石類の処分金から、わずかばかりの義捐金を送った証拠を用意して反駁してくる可能性もあります。
訪問買い取りは訪問販売と違い、クーリングオフを定めた特定商取引法は適用されませんが、消費者と事業者間の契約として、消費者契約法が適用されます。宝石を安価で売る決断は、その宝石の転売金の相当部分を義捐金に使うことが決定的要素ですから、同法第4条4項1号の定める重要事項であり、その説明方法によっては、重要事項の告知違反として、契約の取り消しも可能であると考えます。
自治体ではこうした商法を禁じる行政指導もしています。しかし消費者の側も、面識のない業者の訪問を受けたら、即断しないで、周囲と相談することも大切です。
※週刊ポスト2012年2月10日号