「この時間帯にこの飯は辛い!」「今から静岡おでん食べられるところあるかなあ」。テレビの深夜族を絶叫させているのが、テレビ東京が毎週水曜深夜0時43分から放映している異色のグルメドラマ「孤独のグルメ」だ。松重豊扮する主人公・井之頭五郎が商談のあと昼飯を求めて街をさまよい、様々な店と料理に出会う。「俺の腹は何腹だ?」とつぶやく主人公のモノローグと徹底した料理描写でネットでも話題だ。製作の裏側を番組プロデューサーの川村庄子氏に聞いた。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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――ドラマの原作である漫画「孤独のグルメ」(原作 久住昌之/作画 谷口ジロー・扶桑社刊)は1997年に単行本化されて、2008年に新装版が発売されたロングセラーです。ドラマ化に至った経緯を教えてください。
川村:週刊誌に復活連載されたものを読んで非常に面白いと思っていました。そこへ深夜枠の番組を始めることになって、平日深夜のひと時に、テンションの高いバラエティでなく、難しいドラマでもなく、淡々と美味しい物を美味しそうに食べるところを描く、老若男女が毎日経験する食をテーマにしたこの漫画なら、幅広い視聴者層に訴えることができるんじゃないかと思いました。
登場するお店は実際にある、どちらかというと庶民的なお店が多く、番組を見たあと視聴者の方が実際にその店に食べに行ったり、似たものを食べてみたりする楽しみもある。いざ放送が決まったら私の周りにもコアなファンが多くてびっくりしました(笑)。
――ドラマで重要な要素はやはりお店だと思うのですが、ドラマで登場するのは漫画原作とは違うお店ですよね。毎回どうやって探されているのですか。
川村:そこがいちばんこだわっているところですが、いちばん苦労しているところでもあります(笑)。ネットで検索すればいろいろお店が出てきますが、それではそのお店が本当においしいか、ドラマになるかわからないので、スタッフが手分けしてドラマになりそうな雰囲気の街を歩き、何か惹かれるお店を見つけると実際に食べに入ってみる、ということを繰り返しています。
――えっ実際に歩いて探されているんですか
川村:はい。第1話の焼き鳥屋さんは監督のおススメのお店でした。何を食べても美味しく、つくねをピーマンに潰して「ピーマンの肉詰め」みたいに食べるのも新鮮でした。女将さんの淡々とした雰囲気がまたお店にいい味を出していて、是非に撮影させて頂きたいと。
第4話の浦安編では、お洒落なカフェなのになぜか「静岡おでん」があるという意外性とか、料理+αをドラマに取り上げるお店の基準にしています。このお店探しが時間も手間もかかり、ロケ日以外はスタッフに電話すると、大抵お店探しでどこかで何かを食べてますよ(笑)。それでも、まだ最終話までのお店が決まっていないという恐ろしいことになってます(笑)。
――最初にお店ありき、なんですね。
川村:普通のドラマはシナリオがあって出演者があって、ロケ地を探すという段取りなるかと思うのですが、「孤独のグルメ」は真逆なんです。最初に雰囲気のある街があって、お店がある。ロケ地が決まってから脚本家たちがシナハン(シナリオ・ハンティング)をしてシナリオを書いて、それに合うような役者さんのブッキングをしていきます。
結果的に、シナリオが出来てから撮影まであまり間がないのですが、1度想定していたお店が撮影数日前にNGになったことがあって、皆顔面蒼白になりましたよ(笑)。お店だけじゃなくて、実際にそのお店がある街でお食事シーン以外のロケもしていますから。五郎の仕事のシーンを別の地域で撮って、ということはしていません。
――その役者さんというと、第1回目の焼き鳥屋さんで、女優さん演じる女将さんと実際の女将さんがそっくりという衝撃がツイッターを賑わせていましたよ(笑)。
川村:それは、狙いです(笑)。
――えっ!
川村:「グルメドキュメンタリードラマ」と表現しているので、食に近い部分はなるべくリアルに描くように心がけています。食べ物の湯気だったり、ロケ地や登場する建物だったり。登場人物もなるべく実際のお店の方に似ているキャラの役者さんを探すようにしています。
第4話の「静岡おでん」のときはオーナーの女性がとても美しい方だったので、美系の役者さんにお願いしました。第3話目の中華料理屋では若い男性店員さんが味がある方でそういう雰囲気のある役者さんにお願いしたんです。(続く)
写真(C)テレビ東京