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現在配信中の1号では、ジャーナリストの櫻井氏が北朝鮮問題について言及。約五年前、国家基本問題研究所(国基研)という小さなシンクタンクを作り、北朝鮮について数多くの提言を行ってきた櫻井氏は、北朝鮮との交渉術についてこう述べる。
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金正日の死で誕生したのは二十代の経験不足の若者をトップにした集団指導体制である。だが、北朝鮮ではこれまでずっと金正日一人がすべてを決定してきた。誰も決定権など持ったことも行使したこともないのだ。おまけに正日は権力の二重構造を作り、それを利用して実権を握った。
国基研が開催したシンポジウム「どうすべきか 金正恩の北朝鮮」に出席した脱北者で元朝鮮労働党幹部の張哲賢氏はこのことを次のように説明した。
「金日成は国家主席、党の総書記という職位を持っていましたが、これは形式にすぎなかった。一九八五年以降、金正日は党の組織指導部を握って、組織指導担当書記を軸とした唯一指導体制を構築しました。そこがすべての権力を握り、総書記や国家主席は形だけになったのです。九四年に金日成が死んだとき、形だけの人間がいなくなっただけだから、混乱は起きなかったのです」
張氏はさらに踏み込んで説明した。
「北朝鮮の権力構造は、党総書記や国家主席を中心とする象徴的な権力しか持っていないグループと、組織指導部を中心とする実権グループに分かれます。金正日は個人独裁権力体制を作るために、権力の分散を行ったのです。
つまり、公的な職位や肩書きは与えるけれども実権は与えない。実権は与えるが、公的肩書きは与えない。従って金正日が死んだ後、葬儀委員会の名簿の序列を見て、北朝鮮の権力を占うのは大変な間違いです」
張氏の説明に基づいて考えれば、どのようにして北朝鮮の内部分裂を誘うことが出来るのか、金正恩体制を早く終わらせることが出来るのかも見えてくる。決定を下せる人物を欠いた集団指導体制自体が二重構造の弱みを内包しているのである。
であれば多人数からなるこの集団指導体制に多層的に働きかければ、内部の意見対立を誘い混乱を生じさせる余地が生まれるだろう。それはある意味、日本にとっての交渉の突っ込みどころになる。