北方領土と竹島の問題は、実は繋がっている――領土交渉進展のための方策を綴った新刊『国家の「罪と罰」』(小学館)の著者・佐藤優氏(元外務省主任分析官)はそう指摘する。
* * *
一般にはよく知られていないが、ゴルバチョフ時代にソ連が北方領土と竹島問題をからめてきたことがある。1989年5月5日、モスクワで宇野宗佑外相(当時=以下、本稿の肩書は出来事時点のものとする)がゴルバチョフ・ソ連共産党書記長と会談した。以下は、この会談にソ連課長として同席した東郷和彦氏から筆者が直接聞いた話だ。
「ゴルバチョフは、『日本は中国、韓国と領土問題をかかえながらも2国間関係を順調に発展させているではないか。ソ連に対して別のアプローチをとっているのではないか』と言った。それを聞いて僕はものすごく腹が立ったよ。ソ連から日本がかかえる他の領土問題について云々されるいわれはない」
東郷氏の言うとおりだ。しかも尖閣は日本が実効支配している領土である。日本政府の立場からすれば領土問題は存在しない。もちろんゴルバチョフはそのような日本政府の基本的立場を理解した上で、あえて揺さぶりをかけてきたのだ。北方領土交渉において、日本が領土保全という国家の原理原則について、二重基準をとっていないことを示すためにも、日本政府が竹島問題に関してブレのない立場を示すことが重要だ。
※『国家の「罪と罰」』より抜粋