振り返れば、われわれサラリーマンは夢のマイホーム資金をいかに借りるかについて頭を悩ませ、心を砕いてきた。
そもそも住宅ローンは、1994年までは全期間固定型か変動金利型しかなかったことをご記憶だろうか。
「バブル期に変動金利は1988年の5.8%から90年には8.5%くらいまで上昇しました。そこから長期金利が低下の一途を辿るなか、1994年に固定金利期間選択型が登場し、経済停滞のなかでも住宅購入意欲を促してきたという背景があります」(東京FPコンサルティング代表の紀平正幸氏)
ちなみに、変動金利型は金融機関が企業に融資をする時のベースの金利となる「短期プライムレート(短プラ)」、3年や5年といった一定期間の固定金利期間選択型は金融機関が企業に融資する特別な金利(デリバティブ金利)の一種である「円金利スワップレート」をベースに決められる。そして、住宅金融支援機構と民間金融機関が共同で提供する『フラット35』に代表される全期間固定型は10年もの国債の金利(長期金利)がベースとなる。
バブル崩壊後、変動金利は下がり続け、「新規ローンの獲得に躍起になった銀行のPRなどもあって、多くの人たちは固定から変動へと借り換えを進めていきました」(紀平氏)。
ところが、2000年8月に経済見通しが明るいとして日銀がゼロ金利政策を解除。短プラも上昇し、「変動のまま放っておけば傷は深まると考えて、今度は固定に乗り換える人が続出。当時のマネー雑誌を見ても、『長期固定に切り替えましょう』などとさかんに報道されていました」(紀平氏)
その後、ITバブルの崩壊で2001年3月には量的緩和を余儀なくされ、短プラは元に戻った。
混乱はそれでは終わらない。次の波は、2006年3月だった。紀平氏の話。
「2006年3月に量的緩和の解除に踏み切り、同年7月にはゼロ金利政策を解除。そして2007年2月に利上げをしたものの、2008年10月にはリーマン・ショックを受けて7年7か月ぶりの利下げ、同年12月にも追加利下げをする迷走が続きました」
その間、変動型の基準金利(短プラ+1%)は2006年7月時点の2.375%から最大2.875%まで上がったが、2009年2月には2.475%へと落ち着いた。それに対し、3年や5年といった固定期間選択型の基準金利は2.25%から3.15%へと上昇。
「変動金利は日銀の政策金利が見直されていないと上げることはできませんが、固定期間選択型は銀行の思惑で上げることができるため、そうした差が生じた」(紀平氏)
にもかかわらず、当時は「さらに変動金利が上がるのではないかといった不安から、より金利が高くなるのはわかっていても固定期間選択型に乗り換える人が続出したんです」
紀平氏がいうように、過去20年の住宅ローン金利は、経済情勢や金融政策によって庶民が右往左往させられた歴史だったのである。
結局、短プラは2009年1月から現在まで1.475%のまま。2007年に変動から長期固定に切り替えたある40代会社員は、「変動だとまだ上がってしまうと踏んで3%強の金利で借り換えてしまったが、今では後悔している」と臍(ほぞ)をかむ。
そして、2012年は国債暴落による金利上昇の恐怖にさいなまれている。
※週刊ポスト2012年2月17日号