夫婦の日常も様々だが、あらゆる夫婦のエピソードが、漫談家の綾小路きみまろにメールや手紙で続々と寄せられている。今回寄せられたのは、ご主人(47歳)が飲料メーカーに勤務の奥様(46歳)から。苗字は「石川」だそうです。
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先日、大学生の一人娘がボーイフレンドを連れてきたんですが、下の名前を聞いた主人が、「拓也? ダメだ! 付き合いは許さん」と怒ったんです。娘が泣いて抗議すると、
「お前は一人娘だから、婿養子をもらうことになる。その婿養子の名前は『遼』でなくてはいけないんだ」
「なんでよ?」
「これにはお父さんの長い屈辱の歴史がある」
私も初めて聞く話でしたが、中学時代の主人のあだ名は「五右衛門」だったんだそう。
「『石川』という苗字から『五右衛門』だよ。おまけに、高校時代のあだ名は『大泥棒』だ。青春時代にそう呼ばれて育った男の屈辱がわかるか? 片思いの子に告白したら『やっぱり大泥棒だ! 私のハートを盗もうとした』って、クラス中にバラされて笑いものだよ。
でも、そんな歴史も『石川遼』くんの出現で変わったんだ。名刺を出すと、『遼くんと同じ苗字ですね』と好印象なんだよ。こうなれば、『息子は遼という名前で同姓同名なんですよ』と自慢したいんだ!」
呆れた! 私も娘に助け船です。
「アナタ、それは無理よ。『遼』という名前は少ないし、もし出会ったとしても、娘が好きになるとは限らないんだから」
「わかった。それじゃ、『啄木』でもいいぞ。天才歌人でイメージもいい。どうだ、選択肢も広がっただろう?」
いえ、ぜんぜん広がっていませんから! もう、いい加減にして!
※週刊ポスト2012年2月17日号