決して射竦(いすく)める、というタイプではない。
「殺菌には日の光に晒すのが一番だそうだ」(米最高裁判事ルイス・D・ブランダイスの言葉)をモットーに、淡々とペンを走らせてきた。雑誌編集者として暴力団を最初に取材したのが20代半ば。40年が経つ。
1990年に組員と思しき男に左脇背を刺された。1992年には担当編集者が、2006年には長男が襲われたが、姿勢は揺るがなかった。
「僕は基本的に鈍感なんですよ。ただ、見ているうちに暴力団が経済にコミットできる余地というのはどんどん少なくなっていって、完全に構造不況業種になってしまった。昨年『暴力団』(新潮新書)を書く時、もうこれで終わりかなと思った」
その『暴力団』が27.5万部のベストセラーとなった。同書がヤクザの組織やシノギや日常生活をわかりやすく解説した“入門書”だとすれば、週刊ポストでの連載をまとめ、2月1日に上梓した『抗争』(小学館101新書)は、ヤクザの“非日常”であり“祝祭”であり、つまりは“本質”をテーマにしている。「暴力団はなぜ殺し合うのか」「人々が抗争に魅かれるのはなぜか」を戦後史の中で考察した。
「一寸先がわからないのはわれわれも同じですね(笑い)。暴排条例に伴う諸問題が噴出して、“もうはまだなり”も実感した。僕はヤクザのファンや支援者ではないし、怖いかと聞かれればそれは怖い。でも、面白い真実があればためらいながらも書いてしまう。そういう性分としかいいようがないのかもしれませんね」
撮影■太田真三
協力■銀座八丁目ウォータータワービル『ラビリンス』
※週刊ポスト2012年2月17日号