応募者は全国から1460人。橋下徹・大阪市長が掲げた「区長公募制度」に、想定を大きく上回る“区長候補”が名乗りを上げた。当初は4月に任用する予定だったが、応募者が増えたために書類審査と2度の面接を経て、就任は8月になる見込みだという。
中でも注目されるのが、日雇い労働者が集う「あいりん地区」を抱え、橋下氏が「大阪改革の象徴」と位置づける西成区だ。
同区の応募者は90人。市の中心地である淀川区、北区、中央区に次ぐ人気だ。
「年収1400万円(市職員からの任用は1200万円)という待遇だけでなく、実績を残せば4年後には“大阪都知事”や中央政界への道も開ける。そんな野心を持つ応募者もいるはずです」(大阪政界関係者)
大阪市は“候補”が誰かを明らかにしていないが、本誌はその一人に話を聞くことができた。横浜市で中古車販売業を営む市川英之氏(51)だ。
市川氏は高校を中退後、横浜市内で建設業勤務などを経て8年前に現在の会社を起業。
「建設会社では日雇い労働者から始まり、やがては営業担当として公共工事の入札などに関わってきました。労働者の街の実態は、お役人さんよりよくわかっていると思う」
大阪とは縁のなかった市川氏は、応募前にあいりん地区で10日間生活した。
「12月29日に仕事を終えてから夜行バスで大阪に行き、1泊500円の宿泊所で過ごしました。内側からかける鍵はなく、もちろん暖房なんてない。そんな部屋が一つの宿泊所に100もある。それが当たり前になっている状況を変えなくてはならないと感じました」
元日の朝から中心部の天下茶屋駅前で“区長候補”のたすきを掛けて「辻立ち」を始めた。
「4日目から声を掛けてもらえるようになり、お茶やおにぎりの差し入れをしてくれる方も現われた。人情味溢れるこの街のために何かしたいという思いを強くしました。
10日間を過ごして実感したのは、生活保護を受けて宿泊所で生活する現状に満足して、“働かなくていい”と考える労働者が多いことです。一方、お役所は“そうした人には最低限のカネだけ与えておけばいい”という姿勢。闇雲に生活保護をバラ撒いて現状をキープするのではなく、働きたい労働者たちが仕事のできる環境をつくる必要がある」
※週刊ポスト2012年2月17日号