【書評】『グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ』
スティーブン・レヴィ著/仲達志・池村千秋訳/阪急コミュニケーションズ/1995円(税込)
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本書は、数百人もの社員に取材し、“インサイダーの視点”でグーグルを描いたという意味で類書と比べて異彩を放つ。
2000年代半ばから「検索連動型広告」で莫大な収益を上げ始めたグーグルは、「Gメール」や「グーグルマップ」など次々に新サービスを繰り出し、情報の世界の覇権を握るのは時間の問題とされた。
しかし、何かが狂い始めた。「ストリートビュー」はプライバシーの侵害で非難され、世界中の書籍をデジタル化する「ブックサーチ」は出版社を敵に回した。
〈「まずやってみて、後で謝る」という哲学こそ、グーグルに成功をもたらしてきた要因だった〉
社員にとってやっていることは同じなのに、新興企業だった頃は「旧弊を破壊した」と喝采を浴び、大企業になると「世の中に混乱を招く」と非難されたのだ。
さらに別の事態も進行していた。ツイッターやフェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が勃興し、グーグルは完全に出遅れた。なぜSNSを軽視したのか。
〈グーグルは(中略)、運営上の革新的アイデアについては世界でもトップクラスのコンピュータ科学者である上級幹部に依存する部分が大きかった〉が、その上級幹部にとっては「アルゴリズム(コンピュータで問題を処理するための手順)がすべて」で、人々の問いに答えを出すのは常にコンピュータであり、人ではなかった。
本書を読む限り、グーグルにSNSの遺伝子はあまりなさそうだ。もし再びグーグルがネット覇者に返り咲くとしたら、人と人をつなぐ関係をアルゴリズムで解き明かした時なのかもしれないが、果たしてそれは可能なのだろうか。
※SAPIO2012年2月1・8日号