なぜ、北方領土交渉は進まないのか。領土交渉進展のための方策を綴った新刊『国家の「罪と罰」』(小学館)の著者・佐藤優氏(元外務省主任分析官)が、外務省の内部事情を一因としてあげる。
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2001年、森喜朗政権下でうまれた北方領土返還の可能性が頓挫したのは、一部の外務官僚の策動によるところが大きい。
外務省に学閥はないが、研修語学ごとのスクール(語学閥)がある。外務省主流派は常に米国か英国で英語を研修したアメリカ・スクールによって占められている。
北方領土交渉が本格的に動いていたとき、筆者はアメリカ・スクールの有力者である総合外交政策局総務課長に複数回呼び出され「警告」を受けたことがある。その内容は、「丹波(実・外務審議官)さんや東郷(和彦・外務省総括審議官)さんは北方領土返還をほんとうに解決しようと考えているんじゃないのか。それはよくない。日米関係に悪影響を与えるからだ。北方領土問題はいつまでも解決せずに、日露が戦略的提携などできない障害が残っていた方がいい」というものだった。
2001年4月に小泉純一郎政権が成立し、田中真紀子氏が外相に就任した。率直に言って、小泉氏も田中氏も北方領土交渉や日露(ソ)関係の経緯に関する知識をもちあわせていなかった。アメリカ・スクールに属する外務官僚と、鈴木宗男氏の影響力を削がないと出世の可能性が閉ざされると考えたロシア・スクールの一部外務官僚が結託して、不正確な情報を流し、世論を誘導し、北方領土交渉を頓挫させてしまった。
※『国家の「罪と罰」』より抜粋