ノンフィクション界の巨匠・佐野眞一が、時代の寵児の半生に迫った『あんぽん 孫正義伝』(小学館刊)は早くも12万部突破と絶好調。2月3日創刊の『メルマガNEWSポストセブン』にはこの『あんぽん』の担当編集者が寄稿。取材現場で目の当たりにした孫正義氏の意外な一面を明かしている。その一部を紹介する。
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孫正義氏のインタビューで毎回、圧倒されるのが、その「スピード感」です。
まず取材日が突如言い渡されます。そして取材時はこちらを畳みかけるように身ぶり手ぶりを交えて、ひたすら喋りかけられる。下手するとこちらが何も質問をせずとも、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
そんな孫氏が“止まった”瞬間がありました。孫氏の生まれは佐賀県の鳥栖なんですが、約40年前の彼の生家周辺の航空写真を、わざわざ地元新聞社から取り寄せて持っていったことがありました。 大判の写真を見せると、
「よく探してきましたね。そうです、この家です、僕が生まれたのは」
と孫氏は歓声をあげました。また、ある時、孫氏のルーツである韓国・大邱に今も住んでいる親戚の写真を持っていったことがあります。
孫氏は「いやあ、まいった」と言い、写真をじっと眺めては、うっすらと涙を浮かべているようにすら見えました。海峡の先の故郷を思ったのでしょうか……。
今回のインタビューでは、彼の国籍問題や幼少期の差別体験など、プライバシーに関する質問を訊ね、それに孫氏も包み隠すことなく答えてくれたのが評判になりましたが、その裏にはこうしたやり取りがあったのです。
孫氏は日本を救う英雄なのか。それとも時代をひっかきまわすトリックスターなのか。国の将来を暗示する答えが本書にはあります。