【書評】
『財務省「オオカミ少年」論』(田村秀男/産経新聞出版/1365円)
【評者】森永卓郎(エコノミスト)
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仕事柄、新聞各紙の経済面には一通り目を通すのだが、正直言って、産経新聞は思想が違うので、本当にざっと目を通すだけだった。ところが、最近は、思わず釘付けになってしまうような優れた記事が目立つようになった。
迂闊だった。本書を読んでから、改めて新聞を読み返してみると、私が感銘を受けた記事のすべてが、著者である田村秀男氏が書いたものだった。思想が同じというわけではない。TPPに関する見方などは、私と大きく異なっている。しかし、著者が素晴らしいのは、事実認識が正確にできているということだ。
震災復興や社会保障費の増大に対処するために、消費税増税が避けられないと、政府は言い続けている。しかし、それは財務省のキャンペーンに過ぎないと著者は反論する。増税をしなくても、金融緩和でデフレから脱却すれば、税収も増えるし、円高も防止できる。
驚くべきは、著者の主張するその方法だ。政府が持っている100兆円の米国債を日銀に買わせるというのだ。日銀が国債の代金を政府に支払えば、政府は財政資金を手にすることができる。同時に資金供給量が増えることになるので、デフレや円高が止まる。
100兆円もの資金があれば、震災復興を初めとする様々な課題を解決できる。しかも、日本政府が持つ米国債は、外交上の配慮から、もともと売却できないのだから、日銀に売ってしまっても政府は困らない。さらに、政府資金を資産売却で調達することになるから、国債の残高は増えない。まさに良いことずくめなのだ。
もちろん、こうした魔法のような政策が採れるのは、世界で日本だけだ。他の国で同じことをやったら高率のインフレになってしまう。つまり、日本は長期間続くデフレという経済現象自体のなかに莫大な埋蔵金を抱えているのだ。
ジャーナリストでこうした思考のできる人は少ない。しかも著者は元日経新聞の編集委員だ。もっとも、こんな主張をするから、日経にいられないのかもしれない。
※週刊ポスト2012年2月17日号