核開発を進めるイランに対してアメリカは追加の制裁を提案するなど緊張が続いている。そんな中、1月にはイランの核科学者が暗殺された。事件の背景には何があるのか、落合信彦氏が分析する。
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3人のイラン人を乗せた1台のプジョーが、イランの首都・テヘラン北部の公道を走っていた。
その車体に、2人乗りのオートバイが近付く。フルフェイスのヘルメットを被った2人の男のうち、後ろの男がプジョーの車体に小型の物体を付着させると、バイクはその場を猛スピードで走り去った。その刹那である轟音とともにプジョーが宙に舞う。付着させたのはマグネット付きの小型爆弾で、車の中にいた2人のイラン人が死亡。死んだのはナタンツ核開発研究所の所長で大学教授でもある32歳のモスターサ・アフマディ・ロウシャンとそのボディガードで、勤務先の研究機関に向かう途中だったという。
1月11日に起きたこの“白昼の暗殺劇”は、手口からしてイスラエル諜報機関・モサドによるものと考えていい。ターゲットをピンポイントで殺害し、直接関係のない者たちへ被害を広げないのは、モサドの特徴的なやり方だ。
近年、モサドによるものと見られるイランの核科学者暗殺が相次いでいる。核開発の進行に対して、イスラエルが敏感に反応しているということである。
※SAPIO2012年2月22日号