女性宮家創設の議論がいよいよ本格化する。しかし、賛否両論巻き起こる中にあって、政治家も識者もほとんど触れていない問題がある。皇室典範の改正によって、人生を大きく変えられる可能性のある、女性皇族方のお気持ちだ。皇室ジャーナリストの松崎敏弥氏が問題点を指摘する。
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女性宮家創設を巡る議論は、昨年10月5日、宮内庁の羽毛田信吾長官が野田首相に面会し、このままでは「皇室の安定的な活動を維持できなくなる」との懸念を伝えたことをきっかけに、注目されることとなった。
そんな中、今年1月7日付の毎日新聞で寬仁親王家の長女、彬子女王殿下(30歳)が、この問題について皇族として初めてお考えを示された。
〈結婚して民間人になるという前提で教育されてきたことを挙げ、「その前提が大きく変わるかもしれないというので、私自身落ち着かない状態です」と心境を吐露した〉
未婚の女性皇族は8人いるが、その中で最年長である彬子様の率直なお気持ちであろう。彬子様に限らず、これから結婚適齢期を迎える女性皇族方も同様のお気持ちだと拝察する。女性宮家創設はそれほど、若い女性の人生を大きく変える法律改正なのだ。
これまで、女性皇族方は「結婚したら民間人になる」と思って人生を歩まれてきた。また、周囲もそのように教育してきた。そのような経緯もあり、もしも、女性宮家が創設されて、結婚しても民間人にならないということになれば、現代の皇室が経験したことのない未知の領域に足を踏み入れることになる。
ヨーロッパの王室と単純に比較はできないが、例えばイギリスなどでは、王女が結婚しても、爵位を与えられて、“ロイヤルファミリーの一員”としてしかるべき地位に留まる。
ところが戦後の日本では女性皇族は結婚したら民間人になると皇室典範で定められて、しかも爵位も存在しないため、“完全な民間人”となる。昭和天皇の五女、島津貴子さんは今でも海外では「プリンセス」と呼ばれるが、日本では一人の民間人だ。また、黒田清子さんも、ご結婚後は、主婦としてスーパーで買い物をする様子などが伝えられるように、もはや“皇室の一員”ではなく、きっちりと線引きがされてきた。
これらの先例を見て育ってきた未婚の女性皇族方にとって、ある日突然湧いた女性宮家創設は、あまりにギャップが大きすぎると考える。
仮に結婚後も皇族として留まるのであれば、園遊会に出席したり、天皇陛下の名代として地方を回ったりと、公務を担い続けることになる。宮家当主としての新たな勉強も必要になるだろう。
影響は結婚のお相手にも及ぶ。結婚相手の男性も皇族になれば、皇室の歴史を詳しく知っていなければならないし、公務で外国の要人と面会するとなれば、相手国の歴史にも通じていなくてはならない。プライベートではどこへ出かけるのにも警護がつき、海外に気ままに旅行に行くことなどできず、生活する上で自由は大きく制限される。
民間人として生まれ、生活してきた男性に、それは相当な困難をともなうだろう。1982年に寬仁親王殿下が「皇籍離脱宣言」をされたことがあるが、生来皇族として生活してこられた方ですら、やめたいと思ったことがあるくらいなのだから、一般人ならば言わずもがなである。
そして最も大きな影響を受ける可能性があるのが、その子供である。皇室典範がどのように改正されるかによるが、仮に女性宮家が一代限りではない世襲と決まり、さらに女系にも皇位継承資格があると改正(女系天皇容認)された場合には、生まれた男子がいずれ天皇となる可能性が出てくる。これまでは民間人として育てるつもりだった子供が、180度方針転換しなくてはいけなくなる。
※SAPIO2012年2月22日号