既成政党に対して国政への進出をちらつかせ、国会への影響力まで持ちつつある橋下徹大阪市長。テレビでは同氏に論戦を挑むコメンテーターたちをことごとく論破し、ネットで若者たちから絶賛(?)されている。橋下氏の“強さの源”はどこにあるのか。氏の戦略と論戦テクニックを、専門家たちが分析した。
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橋下氏の“強さ”が目に見えて分かるのは、テレビ番組での議論だ。
1月28日、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)に出演した橋下氏は、同氏の手法に反論する帝塚山学院大学の薬師院仁志教授に対し、
〈では、今のままの大阪市でいいと思ってるんですか? 大阪をこう変えたいというアイデアはあるんですか?〉
と強い口調で切り返して薬師院教授の反論を封じ込めた。これまでにも、1月15日には『報道ステーションSUNDAY』(テレビ朝日系)で山口二郎・北海道大学教授を、また、昨年末には、朝日放送の『キャスト』の中で、経済評論家の森永卓郎氏などと対論してやり込めたと話題になっている。
なぜ名だたる論客たちが、氏に論破されてしまうのか。
論理学が専門の三浦俊彦・和洋女子大学教授は、「必ずしも論理的だから議論に勝っているわけではない」という。
三浦教授が注目したのは、『報ステ』の中で、作家の渡辺淳一氏が橋下氏にエールを送ったあとの山口教授とのやりとりだ。一部引用する――。
渡辺:しばらく(橋下氏に)やらせたいな。
橋下:ありがとうございます。問題がある時には現実を知っている渡辺さんのような方に批判を受けるのは大賛成なんですけどね、学者なんて何にも知らないのにね。
山口:小説家が現実を知ってるの?
橋下:知ってますよ、小説家なんて現実知らないと、そんなの売れる本書けないですよ。学者の本なんて全然売れないじゃないですか。
――山口教授の、苦虫を噛みつぶしたような表情……。
「本が売れる・売れないという“自然的な事実”と、現実を知ってるか知らないかということは、別次元のことです。ところが、これを直結させて論じている。これは、論理学的には『自然主義の誤謬』と言います」(三浦教授)
このような論理的ではない突飛な発言に、論理で返すのは難しい。仮に山口教授が「学者の本は売れないが、現実は知っている」と反論しても説得力がないだろう。
「ここでは橋下氏は、論理学的に言う『通俗的イメージの濫用』もしています“学者は一般社会のことを知らない”というイメージを山口教授に一方的に当てはめて、自身の発言を補強しているわけです」(三浦教授)
“学者なんて……”というレッテルで攻められれば、相手はその「通俗的イメージ」そのものへの反証を含めて応じなければならない。テレビ討論でそんな時間はないから、やはり橋下氏の“強さ”が印象づけられることになる。
※SAPIO2012年2月22日号