時代の映し鏡として、半世紀もの間存続した名物番組NHK『中学生日記』が、この3月、その幕を閉じる。番組は出演する素人の子役の実話でつくられ、恋や友情、親や先生との対立、受験戦争、校内暴力、いじめ…思春期の子供たちが抱える悩みや、いやおうなく巻き込まれる社会問題など、常に世相を反映してきた。
『中学生日記』最大の特徴は、誰にあってもおかしくない中学生の日常を描くことにある。ドラマに出演する生徒は、ほとんどが演技経験ゼロの素人だという。『中学生日記』を制作するNHK名古屋放送局の滝沢昌弘チーフ・プロデューサーがいう。
「生徒は、劇団などに所属していない、名古屋市内の中学校に通う普通の子がほとんどですよ。というのも、ドラマを撮影するには、顔合わせからクランクアップまで約2週間かかります。平日の夕方にリハーサルを行いますが、中学生なので夜8時までに帰さなければいけません。これができる生徒ということで、収録を行うNHK名古屋放送局から公共交通機関を使って40分以内で通える子供たちに限定して出演者を募集しているんです」
毎年、100~200人の生徒を公募するが、オーディションでは、自己PRと簡単な演技力テストを行う。問われるのは“演技力”より“中学生力”だ。
「演技が上手いか下手かはあまり関係ありません。『この子は何か伝えたいことがあるんだな』というメッセージがあることが重要。その時代の中学生ならではの“何かいいたそう”な雰囲気を持つ子を選んでいます。出演するときも、生徒はみんな実名で登場しているんですよ」(滝沢プロデューサー)
現在、出演している生徒は中1~中3の229名で、過去50年の累計は5000人超といわれる。現場での演技経験から俳優業に目覚めた日記生(生徒役の現役中学生のこと)も多く、これまで森本レオ(68)、竹下景子(58)、戸田恵子(54)、加藤晴彦(36)ら数多くの俳優がこの『中学生日記』からステップアップしている。
生徒はオーディション合格後、演技のレッスンを受けることなく、台本読みから撮影に移る。こうしてできあがるシーンは、プロの演技には遠く及ばない。セリフの抑揚や身振り手振り、表現、表情など細かなところで不自然さが残るのだが、キラリと光る演技もあるという。2010年5月放送の「先生もいじめられていた」で、教師役として特別出演した河相我聞(36)が振り返る。
「芝居経験がないのに、カメラが回ったとたんに泣きだして、『プロよりすごいな』と思う子もいます。役者には “計算”があるけど、素人の中学生はリアルに涙を流す。その涙の破壊力はすごいです」
※女性セブン2012年2月23日号