今回の「巨大地震が来るぞ」騒動は、地震予知研究という学術的な議論では収まらなかった。
1月下旬にはネット上では「25日深夜に大地震が起こる」というデマがネット上で飛び交い、首都圏では飲料水や保存食の備蓄に走る主婦が現われた。根も葉もない噂が拡散したにすぎないが、大新聞が揃って「4年以内に70%」を報じ、悪乗りした週刊誌が「引っ越せ」と叫んだ経緯が、騒動の拡大に力を貸したことは否めない。
煽り報道がデマを生み、さらにデマがデマを呼ぶ。これは福島第一原発の放射能漏れ事故でも起きた現象だ。「漏れた放射能は基準の○万倍」という意味を検証せずに、「大変だ」という記事ばかりが乱発され、それを目にした国民は「大変だ、逃げなくては」とパニックに陥り、風評被害まで発生した。まさにメディアが引き起こした「二次災害」である。
この連鎖反応の効果を増幅させる“スパイス”が「権威」だ。日本新聞協会研究所所長などを歴任した桂敬一・立正大学元教授が語る。
「読売新聞の地震確率報道には、“東大の試算だから大丈夫”という姿勢が感じられます。研究機関の調査結果を伝えることに何ら問題はありません。ですが、あくまで検証を加えた上での話。内容に根拠がないのに、“有名な人がやっているから”という理由で報じたとすればジャーナリズムの無責任です。
“大新聞の読売が書いたから大丈夫”という考えで後追いした他メディアも同様です。こうした権威主義が無責任の連鎖を招き、留保条件もないまま“4年以内に70%”という数字だけが一人歩きしてしまったといえるでしょう」
福島第一原発事故の際には、原発の専門家ではない「地震学者」が原子炉の構造を解説したり、放射線が人体に与える影響を「環境学者」が警鐘を鳴らしたりと、多くのメディアで門外漢の専門家が「□□大学教授」という肩書きで登場して持論を展開した。それが誤解を生み、デマを拡散させたことは記憶に新しい。
立教大学社会学部の服部孝章・教授(情報社会論)は、「各メディアは原発事故の際に、政府や東電の“安全デマ”を流し、直ちに退避すべき住民の避難を遅らせた反省もある。重要な情報であると判断したら、その数字が多少の混乱を招く危険があっても報道する意味はある」と、報道に一定の理解を示すが、こう付け加えることを忘れない。
「東大が再計算をした以上、その内容を丁寧にフォローしなくてはならない。最初の報道と数値が違うからといって引っ込みが付かないというのであれば、報道倫理にもとる問題です」
※週刊ポスト2012年2月24日号