大阪市の水道水をペットボトルに詰めた商品・「ほんまや」は、大阪市の水道水の安全PRのために2007年から1本100円(500ml)で発売され、2011年末までに約133万本を販売した。同事業費は年間3800万円となっている(2010年)。
しかし昨年度の実績は1500万円の赤字。橋下徹・大阪市長は1月に、「儲かってもいないのに、税金を投入して水道水をペットボトルに詰めて売る必要はない。民業圧迫だ」と噛みついた。
「ほんまや」が問題視された点は赤字だけではない。市水道局は、大阪の水道水であるこの商品の製造を、なぜか和歌山県の業者と随意契約を結んで民間委託していた。
なぜ赤字を垂れ流してまで、市内の水道水を和歌山で作っていたのか――。こうした批判が巻き起こるのは当然だったが、市水道局はこう説明する。
「東日本大震災の被災地に無償で配布したため赤字額が大きくなりました。(随意契約は)高い水質を維持してボトリングできる業者を探した結果、和歌山の業者になりました。同事業は水道事業のPRが目的なので費用は水道料金が充てられ、税金は投入されていません」(総務課)
その後、2月1日に橋下氏が「税金の投入はなかった。言い過ぎた」と謝罪したことで、騒動は一件落着したかに見えた。だが、橋下発言を受けて「ほんまや」の事業は1月25日に中止されたまま、「市長の意向なので再開しない」(水道局総務課)という。
何も問題がないというなら、なぜ再開しないのか。それは「ほんまや」問題の本質が、「税金が投入されているかどうか」「赤字かどうか」とは別次元にあるからではないか。
大阪市の借金は5兆5000億円で、日本一の赤字自治体である。
ところが、市水道局は「超黒字」の“優良部門”。2010年度の純利益は約52億円で、9年連続の黒字。累積黒字は138億円に上る。
「平地が多く地の利に恵まれ、取水から家庭の蛇口まで市で一括して運営する“独占事業”であるがゆえの強みです」
ある水道局職員はこう自画自賛するが、借金漬けの市政の中で、PR目的でポンと3800万円を投じ、「1500万円の赤字も仕方ない」と言い切れる部門が存在するというのは、市民が簡単に納得できる話ではないだろう。
50代市民のボヤきはもっともである。
「そんなに儲かっとるなら、もっと水道料金安くするとか、ワシらに還元されるべきとちゃうか」
市水道局の事業は、徴収した水道料金(約640億円、2010年度)をもとにした「水道事業会計」で賄われる。国家予算でいうところの道路特会や年金特会などの「特別会計」に相当する。が、いくら余剰金があろうとも「水道事業のため」にしか使われない。まさに自治体版の「埋蔵金」である。
大阪市の水道料金は安い。市内の一般家庭の1か月の使用料金(20トン)は2016円。政令指定都市では日本一の廉価である。さらに安くして市民に還元すればいいと思えるが、水道局側は「NO」と答える。
「様々な経営指標を見て料金を決めており、これ以上の値下げは考えていません」(経営企画課)
※週刊ポスト2012年2月24日号