時代の映し鏡として、半世紀もの間存続した名物番組NHK『中学生日記』が、この3月、その幕を閉じる。恋や友情、親や先生との対立、受験戦争、校内暴力、いじめ…思春期の子供たちが抱える悩みや、いやおうなく巻き込まれる社会問題を丹念に描き続けてきた。
思春期の悩みは、恥ずかしくて他人に相談できないという中学生が多い。その母親もまた、子供のことを考えれば周囲に相談しにくい。だから子供と親のそれぞれが『中学生日記』を通じて、同年代の悩みを共有していた。20年を超える教師経験を持つ教育評論家の尾木直樹さんはこういう。
「ぼくが現役教師だったころは校内暴力や不登校など、そのときの教育現場の問題がそのまま番組に反映されていました。教師は『自分のクラスで起きていることは全国レベルの問題なんだなあ』と感じたし、保護者会でも『あの番組、見ましたか?』と話題になることが多かったですね」
ところが、そんな『中学生日記』は、視聴率では長期的に低落傾向が続き、2003年4月にNHK総合からNHK教育へと放送枠が移ると、さらに視聴者離れを招いた。『中学生日記』を制作するNHK名古屋放送局の滝沢昌弘チーフ・プロデューサーがいう。
「アニメやゲームなど多様なエンタテインメントに囲まれ、中学生の目が肥えてきました。ドラマは“誰が出るか”が大事で、同年代の普通の子が芝居をするという形式はなかなか支持してもらえません。各局がバラエティー番組をそろえる夜7時台、『学校や塾から疲れて帰宅したらガハハと笑える番組が見たい』という中学生が多くなりました」
かつてはドラマが悩みを共有する役割を果たしていたが、最近はテレビを見なくても、インターネットで手軽に相談相手を見つけられるようになった。2010年5月放送の「先生もいじめられていた」で、教師役で特別出演した河相我聞(36)もこう語る。
「いまは悩みをブログで書いて相談することができます。検索すれば、同じ悩みを抱えている人のブログもたくさん見つかり、その悩みに対してのアドバイスもコメントで見られます。ネット上で『こんな人もいるんだ』とわかるので、ドラマを見る必要がなくなったのかもしれません」
そもそも、学校や家庭では、以前よりドラマが起こりにくくなっているという。全国47都道府県でフィールドワークを行い、1000人を超える若者に聞き取り調査を行った博報堂若者生活研究室アナリストの原田曜平さんがいう。
「ケータイメールが普及したからだと思うんですが、いまの子供たちは昔に比べて、目立つことを恐れるようになりました。目立つと、すぐメールで他の仲間に『変なヤツ』『イタい』などとまわされてしまう可能性がある。だから、相手の顔色を見て生活せざるを得ません。
恋愛でも、昔だったら『当たって砕けろ』があったけど、いまそんなことして失敗したら、メールでうわさが拡散されてしまう。いまの子供たちはまずメールでお互いの気持ちに探りをいれてからつきあうから、韓流ドラマのような熱い展開にはならないのです」
※女性セブン2012年2月23日号