民主党政権の進める税と社会保障の一体改革で、消費税を10%に増税するなどの試算が一部報道され騒ぎとなったが、その問題の試算は『新制度の財政試算のイメージ(暫定版)』という表題で、民主党の社会保障・税抜本改革調査会が昨年3月に厚労省に試算させたものだ。そこで本誌は、この試算を入手、「年金博士」こと社会保険労務士・北村庄吾氏とともに、現行制度との比較検証を行なった。
試算は、2016年度に新制度での保険料徴収が始まり、2065年度から新年金が給付されると仮定している。
試算の前提となる新・年金制度は2階建てで、1階部分が「最低保障年金」、2階部分が「所得比例年金」になっている。現在もサラリーマンの年金は2階建てだが、どちらも保険料方式なのに対し、最低保障年金は税金のため保険料はかからない。
現行制度は規定の保険料を納めたサラリーマンは基礎年金、厚生年金ともに受給できるが、新制度では、所得比例年金が多くなるほど最低保障年金は減額され、ゼロになる人たちもいる。収入が高いサラリーマンほど、現行制度と比較して受給額が大きく減額される。
例えば、厚生年金に40年加入している生涯平均年収(以下、年収は生涯平均を指す)690万円の共稼ぎサラリーマン夫婦(合計年収は1380万円)の場合、年金受給額(月額)は、月額約19万円ずつの合計約38万円になる(以下、現行の支給額はブレインコンサルティングオフィスの試算)。
しかし、新制度では夫婦とも最低保障年金はゼロで、所得比例年金だけ1人あたり月額約12.6万円支給される。夫婦合わせて25.2万円。現行制度より月額約13万円、年間161万円の減額になる。85歳までの20年間ならば、なんと3000万円も損することになる。
新制度の年金カットは高額所得世帯だけではない。
政府はこれまで最低保障年金を「月額7万円」と説明してきたが、これ自体がウソだった。
文書には「見なし運用利回り」という年金の専門家も聞いたことがない言葉が出てくる。計算式を見ると、民主党が批判していたマクロ経済スライド(物価や賃金の増減、人口減少などによって受給額を政府が自由に調整する仕組み)に近い制度だ。7万円のはずの最低保障年金は、このズルイ仕組みを悪用して、給付が始まる2065年度からすでに「5万8000円」にカットされることになっている。このあたりに、マニフェストを役人が骨抜きした跡が見える。
※週刊ポスト2012年2月24日号