大阪市の水道水の安全PRのために2007年から1本100円(500ml)で発売された「ほんまや」は、2011年末までに約133万本を販売した。しかし昨年度の実績は1500万円の赤字。橋下徹・大阪市長は1月に、「儲かってもいないのに、税金を投入して水道水をペットボトルに詰めて売る必要はない」と事業の中止を指令、水道局改革の口火を切った。
橋下市長は府知事時代から、水道事業を「(府と市の)二重行政の象徴」として問題視してきた。
大阪府内には、府の3施設(大阪市以外の自治体に供給)と、市の施設3か所の計6つの浄水場がある。節水家電の普及や不況による企業の水需要の落ち込みで、年々供給量は減少し、施設稼働率は全国平均から10%低い約55%(2009年)。うち1か所では、府と市の浄水場が隣接する場所がある。
職員数が多すぎるという指摘もある。市水道局は約1800人(2011年末)で、給水人口が約100万人多い横浜市の職員数とほぼ同じ。職員1人当たりの給水世帯数は全国平均の約半分となる約860世帯と、効率の悪さが目につく。
この状態で2010年度には50億円、9年連続で累計138億円もの黒字を積み上げているのは民間企業なら“立派”といえるが、あくまで水道は公益事業だ。大阪の“水商売”には大量の「埋蔵金」が眠っていることになる。
水道局が策定した「市水道事業中期経営計画(2011~15年度)」による今後5年間の削減目標を見ると、人件費などで66億円、業者への発注費用約20億円など、約300億円を削減できるという。これは水道局側が発表した「最低ライン」である。
すでに橋下市長は新大阪駅に近く再開発可能な市内の柴島浄水場の廃止を表明しており、「大阪維新の会」の試算によると、用地売却益などで約1310億円。これに前述した累積黒字の138億円を加えると、合計で約1800億円が掘り起こされる計算だ。
もちろん職員側の抵抗は避けられない。橋下氏が市長に就任した直後の12月上旬の市議会で、市水道局は「府と市を統合すると市内の水道代は月額240円アップする」という試算を公表し、市民に「水道代が上がってもいいのか」と迫る。
かつて塩川正十郎・元財務相は、一般会計と特別会計の関係を「母屋でおかゆをすすりながら、離れではすき焼きを喰っている」と表現したが、まさに大阪市の財政と水道局の財政もそれと同じ構図である。市民のために使われないカネが、役所内に眠っているという大いなる矛盾を、橋下氏は解消できるのか。
※週刊ポスト2012年2月24日号