小沢一郎元民主党代表の公判の行方を左右する一つの要素が、元秘書・石川知裕衆院議員の供述調書の採否だ。石川氏をよく知り、自身が検察による国策捜査を受けた経験を持つ佐藤優氏は、新刊『国家の「罪と罰」』(小学館)の中でこんなエピソードを披露した。
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石川氏が逮捕された後、東京拘置所で毎日30分の面会をする弁護士にファックスでメッセージを託した。A4判のコピー用紙にマジックで短いメッセージを記す。弁護士はこの紙を面会場のガラスに押し付ける。それを石川氏が声を出しながら読む。保釈後、石川氏から「そろそろ検察官が味方に見え、弁護人が敵に見えてくる。要注意! 敵と味方を間違えるな!」というメッセージを読んで、ハッと我に返ったという感想を聞いた。
石川氏は、2010年2月5日、東京拘置所から保釈された。政治資金規正法違反容疑で石川氏ら3人が起訴されたが、小沢氏は不起訴になった。これに関し、検察審査会に不服が申し立てられた。そしてこの年の5月17日に東京地方検察庁で石川氏から約5時間の事情聴取が行なわれた。この聴取の全過程を石川氏は鞄の中のICレコーダーで録音した。この録音を強く勧めたのは筆者である。筆者はその時、石川氏にこう伝えた。
「自分の身は自分で守るしかない。特捜検察がどういう取り調べをしているかは、経験した人以外には理解できない。裁判官だって弁護士だって実態を認識していない。今度の事情聴取は任意だ。録音しても法に触れる訳じゃない。検察官が『録音していないだろうね』と念を押してきても、とりあえず『はい』と答えておけばよい。
外交の世界に相互主義という概念がある。相手が約束を違えた場合、それと同程度にこちらも約束違反をする権利があるという考え方だ。これまで石川さんが供述した内容を部分的に誇張して検察はマスメディアにリークした。
内閣総理大臣名の質問主意書で検察はリークしていないと答弁しておきながらである。法廷外で検察は石川さんに対するネガティブキャンペーンを展開している。それに対して石川さんが、身を守る材料が必要だ。それだから取り調べの実態を録音することを強く勧める。それが歴史に対する責任を果たすことにもなる」
※『国家の「罪と罰」』より抜粋