民主党政権の進める税と社会保障の一体改革で、消費税を10%に増税するなどの試算が一部報道され騒ぎとなったが、その問題の試算は民主党の社会保障・税抜本改革調査会が昨年3月に厚労省に試算させたものだ。そこで本誌は、この試算を入手、「年金博士」こと社会保険労務士・北村庄吾氏とともに、現行制度との比較検証を行なった。
試算の前提となる新・年金制度は2階建てで、1階部分が「最低保障年金」、2階部分が「所得比例年金」になっている。現在もサラリーマンの年金は2階建てだが、どちらも保険料方式なのに対し、最低保障年金は税金のため保険料はかからない。
現行制度は規定の保険料を納めたサラリーマンは基礎年金、厚生年金ともに受給できるが、新制度では、所得比例年金が多くなるほど最低保障年金は減額され、ゼロになる人たちもいる。
厚労省は最低保障年金が全額カットされる基準(生涯平均年収)を4パターンに分けている。
当然、役人の思惑は、できるだけ多くの国民を「支給ゼロ」にすることだ。最も厳しいのは、年収380万円から1階部分の最低保障年金をゼロにするケースで、この場合、年収ゼロの人は保険料タダで最低保障年金5万8000円が支給される一方で、年収380万円の人は、保険料を負担しても最低保障年金はもらえず、所得比例年金分の7万円だけになる。40年間保険料を納め続けた人と全く納めなかった人の差はわずか1万2000円だ。
しかも、新制度は「二分二乗方式」と呼ばれる夫婦の年金分割を取り入れている。これも2009年の民主党のマニフェストにない部分だから怪しい。
この制度では、年収760万円の夫と専業主婦の年金は、「年収380万円が2人」と計算される。ここが役人の悪知恵だ。「年収380万円」の夫婦は、2人とも1階部分がもらえないから、受給額は7万円+7万円=14万円にしかならない。「1階カット」の痛撃をダブルで受けることになる。役人からすると、税金負担は夫婦揃ってゼロにできてしまうわけである。
※週刊ポスト2012年2月24日号