ライフ

5千年の歴史持つバナナ バナナで大統領が追放されたことも

【書評】『バナナの世界史』(ダン・コッペル著 黒川由美訳/太田出版/2415円)

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 * * *
 かつてバナナは高価で特別なデザートだった。そして今日、世界でもっとも消費されている果物はバナナである。嗜好品としてだけでなく、何億人もの飢えを救う。

 世界には千種を超えるバナナがあるという。私は南インドで食べたバナナの味と香りに仰天したことがあるが、現在、世界に流通するバナナの大半はたった一種類だという。栽培と流通に好都合な品種は、数千回におよぶ交配をへてたどりついた。しかしバナナは本質的に脆弱な植物であり、ときに伝染力の強い病気に冒される。

 本書は、世界の「歴史を変えた」果物の壮大なドラマを追った。著者は科学・自然を専門とするライターだが、視点は幅広い。平明な語り口とウィットに富む文章で、グローバリズムによる繁栄と悲劇を浮かび上がらせる。

 そもそもバナナは、中国南部から東南アジア、インドに広がる森のなかでひっそりと自生していた。人類が栽培した歴史は、わかっているかぎりでも紀元前五千年のパプアニューギニアにさかのぼる。やがて船乗りや商人、開拓者や征服者によってバナナは七千年をかけて地球を一周した。

 劇的な変化は十九世紀後半の「フルーツ産業」の誕生だ。米国のバナナ会社は中南米諸国の政権を操り、土地を不正取引で手に入れる。熱帯雨林を伐採して広大なバナナ農場を建設し、鉄道を敷き、巨大な輸送船でバナナを運んだ。一方、現地の労働者は過酷な労働条件とともに、農薬散布による健康被害などに苦しんだ。

 一九五一年、グァテマラに民主的な選出によりアルベンス大統領が誕生し、バナナ会社と激しく対立する。しかし米国政府の後押しを得る「バナナ帝国」の大企業は、狡猾なメディア操作をし、大統領を追放することに成功する。

 バナナをめぐって〈過去一世紀におよぶ弱者への軽視と搾取〉を繰り返してきたが、それでもバナナを愛してやまない著者は、その未来のためにフェアトレード(公正取引)を提唱し、有機栽培の発展にも希望を見出そうとしている。

※週刊ポスト2012年2月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン