かつて皇室や宮家には生まれた子供を里子に出す習慣があったが、戦後、里親制度は廃止された。天皇陛下は宮中祭祀の継承をはじめとする「帝王教育」をどうなさったのか。皇室ジャーナリストの久能靖氏が解説する
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昭和天皇は神格化された天皇と象徴天皇の両方の時代があった。一方、現在の天皇陛下は最初から象徴天皇として即位されている。そのため「象徴とは何なのか」「どうすることが象徴なのか」ということを考え続けた末に、常に国民とともに歩くことこそ象徴のあるべき姿だ、というお考えに到達されたのではないか。だからこそ、災害があればすぐに被災地に行かれ、病気になっている人がいればお見舞いをされるという現在のお姿があるのだと思う。
また先の戦争で激しい地上戦があり、多くの住民が巻き込まれた沖縄に対する天皇陛下の強い思いも、昭和天皇のお気持ちを継承されていると思う。昭和天皇のお考えが天皇陛下にしっかりと受け継がれ、さらに皇太子殿下に継承されるとすれば、国民としてこんなにうれしいことはない。
皇太子殿下が天皇陛下から引き継がれる重要な儀式が宮中祭祀だ。宮中祭祀は天皇家の私的行事であり、国家行事ではないが、はるか昔から歴代の天皇によって引き継がれており、決して揺るがせにできない。天皇皇后両陛下だけが宮中でお参りされているように伝えられているが、実際はそうではない。おいでになる回数は、皇后陛下より皇太子殿下の方が多いのだ。
たとえば元日の歳旦祭は、天皇陛下と皇太子殿下だけで執り行なわれる。といっても、お二人が一緒に拝礼をされたり、所作をされるのではない。天皇陛下が儀式をなさっている間、皇太子殿下は別の場所で控え、出を待っておられる。
側近の話によると、皇太子殿下も宮中祭祀には真剣に取り組まれており、御座で長時間正座をされていても、まったく姿勢を崩されることはないという。天皇陛下の宮中祭祀に対する厳粛なお取り組みを、皇太子殿下はしっかりと引き継ごうと決意されておられるのだろう。
※SAPIO2012年2月22日号