食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏がニュースや著名人などに縁のある料理を紹介する「日本全国縁食の旅」。今回は全国で品薄になったトマト騒動について迫ります。
* * *
この数日「スーパーの店頭からトマトが消えた!」というニュースがテレビ、新聞、ネットなどあらゆるメディアを駆け巡っている。実際、スーパーはおろか百貨店や酒販店の店頭からもトマトジュースは姿を消し、Amazon.co.jpや楽天など大手通販サイトでも、軒並み品切れ状態。
健康にいいと報道された食品に消費者が殺到する「フード・ファディズム」がまた起きている。しかもこういう報道を見るにつけ、トマトが食べたくなるから、ますます困る。
ことの発端は2月10日、京都大学農学研究科の河田照雄教授のチームが「トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見:効果を肥満マウスで確認」したと発表したこと。これに某通信社が「トマト、メタボ予防に効果」と言い切り型の見出しで煽ったことで一気にネット上に拡散した。
同時にテレビの情報番組などで紹介されたことでトマトジュースやトマトが品薄状態に。その状態の店頭が新聞やテレビで報道され、また品薄にというスパイラルに突入している。
ちなみに河田照雄教授は会見で「脂肪をドーッと燃やしてくれるものではない」「スリムになることを期待してもらっては困る」と念を押していたが、記事中では「河田教授は『人間の場合、毎食コップ1杯(約200ミリリットル)のトマトジュースを飲むことで同様の効果が得られる』と話している」と書かれている。
調べてみると「人間にも同じ効果があるかどうかは現時点ではわからないが、マウスに与えた成分を人間の食事に換算するとトマトなら毎食2~4つ、トマトジュースなら毎食200mlに相当する」とは発表しているが、ざっくり意訳するとしても、「メタボで高血圧で脂肪肝の人は、トマトをたくさん摂取すると、わかんないけどいいことあるかも」レベルの話のよう。
ちなみに市販のトマトジュースのなかには毎食200mlずつ飲むと、摂取する塩分がナトリウム量換算で約2.4g相当となるものもある。この数字は、WHO(世界保健機構)が提唱する塩分摂取量の目安、1日5~6gの半分近くに相当する。例えばこれに塩分量3.8gのビーフカレーを一皿食べてしまうと、もう一日あたりの摂取量をオーバーしてしまうことに。ちなみに天丼、カツ丼、ラーメン、天ぷらそばなど、外食の定番メニューにはほとんどがビーフカレーと同等かそれ以上の塩分が含まれている。
「メタボ予防!」とトマトジュースの飲みすぎで、塩分の過剰摂取などということになったら目も当てられない。ちなみに「フード・ファディズム」の歴史上、トマトは「夜トマトダイエット」以来の2回目の登場。バナナ、納豆、リンゴ、寒天、ココアなどがめまぐるしく浮沈を繰り返すなか、「トマトが赤くなると医者が青くなる」というヨーロッパのことわざの通り、持ち前のタフさを見せつけた形となった?