「八重歯をかわいいと思うのは“赤ちゃんがかわいい”のと同じくらい当たり前のもの。でも、それは日本独自の文化なんです」
こう語るのは、近著に『八重歯ガール』(朝日新聞出版)のある八重歯女子専門ブロガーで文筆家の前川ヤスタカさん。アメリカでは歯列矯正に保険が利くこともあり、小さいころに歯並びを矯正するのが一般的という。
「アメリカで矯正できないのは保険料を払えない貧困層だととらえられますからね。八重歯=吸血鬼と忌み嫌われる傾向にあるのも確かです。ではアジアはどうか? 中国では、もちろん地域差はあるようですが、楊貴妃が“明眸皓歯”といわれたように、やはり美しい歯が好まれます。
芸能界で日本人が活躍する台湾であっても、八重歯アイドルは圧倒的に少数派。韓国人は日本人よりあごの骨ががっしりしているため八重歯自体が少なく、歯列矯正が一般的。そのため八重歯アイドルはほとんど見られないか、いたとしてもデビュー初期に矯正してしまいますね」(前川さん・以下同)
そもそも八重歯とは、どんな歯か。『大辞泉』には“正常の歯列からずれて重なったように生える歯”とある。
「一般的には犬歯をさすことが多いですね。重ならずとも、犬歯がせり上がっていたり尖っていたり大きかったりするだけで、八重歯という人もいる。八重歯は俗称であり主観的なもの。きちんとした線引きはありません。見る人が八重歯と思えば八重歯なんです」
では、八重歯が日本でのみどうしてここまで許容されるようになったのか? 前川さんによると以下のような理由が考えられるという。
【1】あごが小さい民族ゆえ、八重歯人口が多くて市民権を得たから。
【2】日本では不完全なものに美を見出すため。
【3】やわらかいものばかり食べて八重歯になる高貴な身分の人への憧れから。
【4】歯が生え替わる時期の幼さや若さを象徴しているため。
【5】歯を出して笑わないから。
【6】アニメなどでデフォルメされるなど、八重歯がかわいさの象徴になった。
【7】歯列矯正費用が高額で、矯正への抵抗感があるから。
「とくに【5】と【7】が大きな要因だと思います。それに同性にも人気の高い八重歯のある芸能人が活躍することで、かわいい象徴となったのではないでしょうか」
※女性セブン2012年3月1日号