アジア全域の駐留米軍を射程にした中距離ミサイルを増強し、空母を保有する中国。一方のアメリカも近年、中国の軍事的脅威に対する研究を強力に進める。産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏が、中国研究の第一人者として知られる国際教養大学理事長・学長の中嶋嶺雄氏と、「赤い脅威の正体」について語り合った。
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中嶋:中国のイスラム圏、アフリカ諸国への勢力拡大は、もちろん資源確保という戦略意図があるわけですが、明の時代にアフリカまで出て行った鄭和の大航海を想起させます。
われわれは中国を大陸国家だと思っているけれども、中国は実は海洋国家でもある。2008年北京オリンピックの開会式で、フィールドいっぱいに無数の人間が巨大な船形のパフォーマンスを展開して鄭和を持ち上げました。
あれは、世界中に海洋国家であることをアピールしたんだろうと思うんですね。
古森:その中国の軍拡は、いったい何を目指しているのか、というのがわれわれの懸念になるわけですが、日本では国政レベルで中国のあり方、特に軍事力に光を当てて研究し、議論するということがない。期待するのは無理なんでしょうか?
中嶋:日本の政治家はそんなレベルにないですね。それどころか、大挙して中国を訪問し、江沢民や胡錦濤に頭を下げるという外交をやっている。
そもそも中国の侵犯や威嚇が続く尖閣問題は、明らかに日本外交の失敗です。1972年に日中国交正常化しましたが、その直前に人民日報が「尖閣は中国の領土」と外交声明を掲載しました。
ところが、当時アメリカのニクソン大統領が訪中するという“ニクソン・ショック”で、日本政府も外務省もバスに乗り遅れるなとばかりに、その重要な声明を考慮せず、国交正常化に流れていった。
その後、1978年の「日中平和友好条約」批准書交換セレモニー出席のために訪日した鄧小平は「尖閣の問題は次の世代、また次の世代に委ねる」という内容の発言をし、政府もメディアも大歓迎した。
だが、鄧小平が最高権力者となった後の1992年、中国は領海法を定め、国内法上は尖閣は中国のものであるとしました。この年、天皇皇后両陛下の訪中が控えていたため、日本政府は中国の領海法に対して、ひと言も抗議していないんです。
そういう既成事実の積み重ねがある上に、さらに中国に低姿勢に出る。そうすれば、中国は世界と協調してくれるだろうと。
古森:中国に対してやさしく出れば、中国もやさしくしてくれるという発想はどこから出てくるのでしょうか?
中嶋:戦後の日本外交、特に外務省のチャイナスクールなどが大きな災いの元だと思います。私はかつて香港の総領事館に外務省特別研究員として2年間勤務したことがありますが、「中国」というとそれだけで位負けするという体質があるようですね。
※SAPIO2012年2月22日号