「国民に負担を強いるのだから、まずは自分たちが身を切るところから」とはよく政治家が使うレトリック。しかし、増税にどんどん前のめりになるわりに、公務員給与カットほか、改革は一向に進まない。裏側で何が起きているのか?
これまでも、さまざまな、おバカな政策を指摘してきた政策工房社長の原英史が、問題点を解説する。
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公務員改革に何も手をつけられない国を尻目に、大阪では給与・退職金カットに加え、「職員基本条例」や「教育基本条例」の議論が進行中だ。争点の一つが、府市職員や学校教員の人事評価のやり方。筆者も参加している府市統合本部でも議論になった。
公務員の場合、仕事を頑張ってもさぼっても、年功序列で昇進し、給与も上がっていくということになりがち。これが組織の非効率を生む。だから、頑張った人を評価し報いる仕組みの導入が必要だ。
ところが、その前提になる人事評価がそもそも機能していない。例えば、大阪府管理下の教員の場合、形式上は5段階評価(S、A、B、C、Dの順)を実施しているが、実際の評価結果をみると、A評価とB評価がそれぞれ約50%。最下位のD評価に至っては0.01 ~0.02%(1 万人に1~2名)という数字だ。
普通、5段階評価ならBを中心に富士山型の正規分布になるものだが、およそかけ離れた異常な形状の分布になっている。
これをまず何とかしなければということで、府・市双方において、条例での評価ルール設定の検討が進んでいる。これは、地方だけでなく、国にも同様の問題がある。
国家公務員の場合、「人事評価の基準、方法等に関する政令」という政令で、5段階評価が義務付けられている。ここでもやはり、下位評価は実際にはあまりつけないのが一般的だ。この点は国会でも議論があって、江利川人事院総裁がこう説明している。
「公務員の採用は試験でやっている(中略)試験ですそ切りをしておりますので、その能力評価が正規分布になるということではないんではないか」(10月5日、衆議院東日本大震災復興特別委員会)
つまり、「公務員は公務員試験を通った人ばかりで、みんな優秀。だから評価が下の人はいない」というのだ。この理屈で納得する人がどれだけいるのだろう。多くの民間企業でも採用試験をやっていることさえご存じないのか。
こんな人物が人事行政を取り仕切り、給与カットを妨害しているのだ。
※SAPIO2012年2月22日号