大阪市の橋下徹市長は、「役人天国」と呼ばれた大阪市の改革を声高に訴え、職務命令に従わない職員の排除、優遇されすぎている給与の見直しなどを打ち出してきた。橋下氏が公務員改革の“最大の標的”に定めているのが、市営地下鉄や市バスなどを運営する市交通局だ。
橋下氏は市交通局のトップとなる交通局長に、「リストラの鬼」の異名を持つ京福電鉄(京都市)の藤本昌信・副社長を招聘した。 この改革の先に待つのは市交通局の民営化であるが、具体的には市民にどのようなメリットをもたらすのだろうか。
橋下氏率いる「大阪維新の会」は、民営化による料金の値下げや私鉄・JRとの乗り入れによる利便性アップを公約に掲げる。
大阪市営地下鉄の初乗り運賃は200円で、東京メトロ(160円)より高い。維新の会は人件費の削減などで10~20円の値下げを目論む。また、現在3か所しかない私鉄との相互乗り入れも検討課題にしている。
市交通局も民営化のメリットを認めている。
「現在、交通局の外郭団体で行なう駅売店などの収益事業は、公営事業の付帯事業であるために制限もあるが、民営化すれば東京メトロのように駅の敷地内での事業展開ができ、ターミナルを活性化させることができる」(企画課)
2004年に民営化された東京メトロでは、私鉄やJRと相互乗り入れする駅構内にファッション専門店や飲食店を出店させる「駅チカ」事業を展開、昨年度の「駅チカ」事業収益は開始当初の2倍以上の376億円に上る。
赤字が続く市バスの場合はどうか。道内すべてで民営化を実施した北海道では、「市営地下鉄の駅までだった路線が、JRや私鉄の沿線駅まで延長するなど利便性が高まった」(北海道バス協会)と、サービス向上をメリットにあげる。
だが、大阪市の場合はある問題を抱えているという。
「私鉄と市営地下鉄は路線の規格が違いすぎるため、相互乗り入れには巨額の建設費がかかる。バスも赤字路線の切り捨てでは、僻地の高齢者の足を奪う懸念がある」(市交通局職員)
1933年、全国最初の公営地下鉄として発足した大阪市営地下鉄は、「市内のことは市独自の規格でやるという方針で始まった」(同前)という。当初から役人のセクショナリズムで始まった歴史が、現在の橋下改革の足枷になっているのは皮肉というほかないが、いずれにしても交通インフラは交通局のものではなく、そこに暮らす市民のためのものでなければならない。橋下氏が招聘した「強腕」の手腕が試される。
※週刊ポスト2012年3月2日号