年金官僚は第3号被保険者(サラリーマンの妻)が年金を受け取ることを「負担に応じて給付を受ける社会保険の原則に反して不公平」と批判、短時間労働のパート主婦にも年金保険料を支払わせるという方針を厚生労働省が打ち出した。
読者諸氏は、厚生年金が国民年金を補填(ほてん)していることをご存じだろうか。一般には、自営業者が入る国民年金とサラリーマンが入る厚生年金は別の制度と考えられている。ところが厚生年金の1階部分である基礎年金と国民年金は一緒に運用されている。そしてなぜか、今年度は厚生年金から国民年金へ約16兆円の「基礎年金拠出金」が支払われる。これは毎年のことで、つまり、サラリーマンのカネで自営業者たちの年金財源を賄っているのである。
なぜ、そうなっているのか。背景には300万人以上に上る国民年金の未納者問題がある。日本の年金は現役世代が払う保険料を、そのまま受給に回す賦課方式だ。未納者が多くても、受給世代には年金を払わなければならない。だから、現役世代の自営業者たちが支払わない分をサラリーマンの厚生年金で補っている。
もし野田政権が進めようとしている最低保障年金が実現すれば、まったく保険料を納めなかった国民年金の加入対象者にも最低保障年金が支払われることになり、サラリーマンはもっとむしり取られることになる。
常にサラリーマンのカネが狙い撃ちにされるのは、保険料が給料から強制的に天引きされるから。だから、年金官僚は事あるごとに“とりあえず収入の捕捉率の高いサラリーマンから奪っておけばいい”と考えるのである。しかし自分たちの共済年金だけは無傷で残そうとする。
そんな官僚がサラリーマンをバカにしている決定的証拠が「年金記録問題」である。これは2007年に当時野党だった民主党が国会で旧社会保険庁(現日本年金機構)による年金記録のずさんな管理の結果、保険料を納めた記録があるのに誰のものかわからない「宙に浮いた年金」が5095万件あることを追及した問題だ。
その後、入力し忘れによる「消えた年金」や、記録が意図的に改竄された「消された年金」の存在も明らかになっている。その大半はサラリーマンの加入する厚生年金で、いずれも年金が受給できないことになりかねないことから批判が噴出した。
しかし、公務員の共済年金加入者記録は絶対に消えない。なぜなら、公務員の紙台帳はすべて現物を保管しているだけでなく、それらの書類を別途マイクロフィルムに撮影しているからだ。まさに年金官僚の、“自分たちの年金さえ守れれば、サラリーマンの年金なんて知ったことか”という態度を象徴している。
悪辣な役人と無知な大メディアが繰り広げる「第3号悪玉論」に決して騙されてはならない。それは、またもやサラリーマンの財布だけを狙う年金改悪の布石なのである。
※週刊ポスト2012年3月2日号