オウム逃亡犯・平田信の出頭は、一般社会に大きな衝撃を与えた。出頭してきた逃亡犯を追い返すという、許され難い失態を犯した警視庁。平田が潜伏していた大阪府警の幹部も臍をかむ。以下、作家の山藤章一郎氏のリポートだ。
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昨年の大みそか、夜8時30分ころ。〈オウム〉事件で指名手配されていた平田信(46)は新大阪駅からの新幹線を品川駅で降りた。黒のダウンジャケットに白のニット帽、マスクの姿は、両駅の監視カメラに鮮明に捉えられていた。
全国の駅構内の監視カメラは5万6000台。警察が町に設置しているカメラは、540台。顔写真で覚えた被疑者を雑踏の中から見つけ出すアナログの〈見当たり捜査〉が好成績をあげている一方で〈科学の目〉も激増している。しかし、大阪府警刑事部捜査共助課次長・丸尾圭司警視は「けどな」という。
「科学捜査も監視カメラも当然必要です。そやけどな、蒸発型、捜しようのない被疑者、これはもう科学で捕まえることは出来ん。年間何百人検挙するうち、素直な被疑者ばっかりやない。
嘘つく、偽造の身分証明書、運転免許証を見せる。ほんまはヤマダやのに『わし、タナカでんがな』と言い張る。こんな奴に、監視カメラは役に立たん。変装でカメラを騙せても、目ん玉を記憶しとる私らに嘘は通じん。
ほかの捜査員やが、休みの日、タコ釣りの帰り、隣を走っとる運転手の顔をたまたま見た。あっ、石川県警から指名手配のまわっとる奴とちゃうか。車のナンバーから割って、3日後にパクった。
休み以外は、ミナミやキタを毎日、現場歩きですわ。立ち飲み屋いっぱいある。風で暖簾がぴらっとこう開く、パッと奥がのぞいた。あっ、あの目ェ。あの目ェがおるぞ。一杯飲んどる。出てきたとこを検挙!
この辺りは市橋達也もおったんやが、残念ながら〈見当たり〉にはひっかからんかった。アレはヤワな窃盗犯や詐欺師と違うて、性根の入った逃亡者やった」
※週刊ポスト2012年3月2日号