地震活発期に突入した日本では、今後幾度となく大きな地震が発生すると言われている。そして、その度に東日本大震災のトラウマも蘇ってしまう。危機管理専門家でリスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏によれば、いま商機が訪れているのは「大震災のトラウマ解消ビジネス」だという。当然、選ぶべきマンションも変わってくる。以下は、田中氏の視点である。
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今年の1月17日の日経新聞に、奇妙な広告を発見した。内容は防災設備の整ったマンションの宣伝。某大手マンション施工会社のものだったが、新聞広告の中に古い新聞広告が掲載されていたのだ。すなわち、8年前に一度使用した新聞広告を、今年の新しい広告の中に利用していたのである。
このデジャヴ(既視感)な広告の目的は、「私たちは8年も前から防災設備の整ったマンションを売っていました」と伝えたいのだろう。確かに、私も見覚えがあった。
『万が一のとき、あなたの住まいは何をしてくれますか』という広告のキャプションが、意味不明でトンチンカンな印象だったことを覚えている。赤いライフジャケットの写真と林の中に立つマンションの写真も、何とも奇妙な組み合わせに思えたからである。
しかし、この奇妙に思えた広告が、不思議なことに今では違和感を感じさせない。それは、東日本大震災のトラウマによって、住宅に安心・安全を求める心理が高まっているからに違いない。それは私だけの心の変化ではない筈だ。
以前から不動産業界では、顧客の住まい選びのポイントは3Pと言われてきた。プラン(間取り)・プレイス(場所)・プライス(価格)のことである。これにプロテクション(保護)を加えると、4Pになる。何やらアダルトサイトの原稿と見まがうような言葉だが、冗談抜きで考えてみる必要がある。
実際、液状化現象の被害が大きかった浦安近辺でも、プロテクションの差は著しく現れた。傾いた一戸建てと無傷の一戸建ての差は、サンドコンパクションなどの基礎工事の有無にあると言われている。
だが、基礎工事だけではなく、住宅のプロテクションは多岐にわたって必要だ。大震災にみまわれた場合には、飲料水、排泄場所、薪を使える調理設備、照明用の電源、の4点の確保が欠かせない。東日本大震災の被災した知人の弁である。
驚いたことに、前述した『深沢ハウス』の広告には、照明用の電源を除く3点が設置されている、と書かれていた。8年前でなければ、広告効果は大きかったに違いない。
事業あるいは商品というのは、時代遅れでは駄目だが、早すぎても成功しない。私が以前勤務していたアイシン精機という会社は、1977年(35年前)頃にウォシュレットを発売していた。当時はシャワートイレと呼んでいたが、売れ行きは低調だった。
現在の普及率を考えると、不思議としか言いようがない。当時は、国民の衛生とか清潔への関心が、今ほど高くはなかったからだろう。すなわち、発売が早すぎたということである。
そこで、読者の皆さんにご提案したい。いま商機が訪れているのは『大震災のトラウマ解消ビジネスです』と。東日本大震災を利用するかのようで、不謹慎な印象を受けるかもしれない。だが、そうではない。次の大震災が来る可能性が高いからだ。
すなわち実需なのだ。地震活発期に突入した我が国では、今後幾度となく大きな地震が発生するだろう。その度に東日本大震災のトラウマも蘇ってしまう。したがって、『大震災のトラウマ解消ビジネス』は、地震活発期を脱するまでの30年(貞観三陸地震後を参考に推定)くらいはニーズが衰えないのである。