NHK朝ドラの主人公・糸子は3月3日放送分から交代となり、夏木マリが演じる。なぜ、尾野真千子は老け役をまっとうできなかったのか。交代をめぐり、賛否両論、さまざまな話題が渦巻いている。作家で五感生活研究所の山下柚実氏によれば、尾野真千子交代の理由は、「篤姫」演じた宮崎あおいと比較するとよくわかるという。以下は、山下氏の視点である。
* * *
NHK連読テレビ小説「カーネーション」。絶好調の時は25%を記録した視聴率も、低下してきたとささやかれる今日この頃。
特に2月に入ってからは、ドラマをめぐって賛否両論の声が飛び交っています。直接の原因は、成長した3人の娘のキャスティングにありそう。
娘役の新山千春、川崎亜沙美、安田美沙子は、主人公・母親役の尾野真千子と同世代。「見ていてあまりにも無理がある」「不自然」といった批判が飛び交っています。
しかし、今年に入ってドラマを観るのをやめた、という人にわけを聞いてみると、どうやらそれだけではないらしい。ちょっと違った、ある理由が浮上してくるのです。
「さわやかな朝に、品のない『オンドリゃー』という罵声や舌打ちは見たくない」、「眉間にシワを寄せ我が強い、無神経なおばちゃん色が濃すぎる」、「役にはまっているのはいいが、女優としての華や透明感が感じられない」等々。
主人公・糸子演じる尾野真千子の演技。その力はドラマ開始直後から絶賛されてきました。青春期~戦争下と、彼女の演技力がドラマを引っ張ってきたことに反論する人は少ないでしょう。
しかし。ドラマを見続けている視聴者としては、たしかに糸子の中年役はつらい。尾野真千子がそもそも関西出身ということもあって、岸和田弁は超リアル。コテコテの関西のりがあまりに「馴染みすぎている」。それが朝には似合わない、重たすぎる、という声が聞こえてくるのです。
そのせいではないでしょうが、3月3日放送分から主人公・糸子が交代し、59歳の夏木マリが演じることに。なぜ、尾野真千子が老け役をまっとうできないか。その理由をめぐっても、賛否両論、話題が沸騰しています。
ここでちょっと、「篤姫」を思い出してください。数年前、絶大な人気を集めた大河ドラマ「篤姫」。ヒロインを演じた宮崎あおいは、童顔そのもの。年をとる設定は難しいのでは、と思いきや、最後まで自然に演じ切りました。
視聴者も違和感なく、年を重ねた「篤姫」を受け入れ、感情移入しながら見続けることができたのです。尾野真千子と宮崎あおい、いったい何が違うのでしょう。
30代の女優が老け役を演じるために一番必要なこと。それは、「役柄」に入れ込むのではなくて、一歩ひいて、役と自分との間にしっかりとした距離感をとることではないでしょうか。
演じている役と自分との大きな差異を、冷静に測り、確認できればできるほど、リアリティのある年寄りが演じられる。
今回の尾野真千子の場合、関西おばちゃん役がハマリすぎ。「役柄」に没入し一体化しすぎて、むしろフィクション性に欠けているとすれば。老いた母の役を安心して託すことができない理由も、そのあたりに見つかるのかもしれません。
一方では、「今さら主人公を変えるな」、「続投させよ」という声もあがっている交代劇。その話題性が、また視聴率を押し上げるとすれば、NHKの思惑通りなのかもしれませんが。