震災から1年たとうとしているのに被災地のがれき処理は5%しか進んでいない。そして、被災地がれき受け入れに賛成する20~70代の女性は28%との調査もある。「がれきが放射能に汚染されている」という反対論が根強いためだ。だが、がれきの向こうにも親の気持ちがあることを感じてほしい。石巻市の大川小学校の前にたたずむ、雪に凍える幼子像の前から、ノンフィクション・ライターの神田憲行氏がリポートする。
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石巻市鹿島御児神社に登り湾を望むと、旧北上川から湾につながる河口付近にうずたかく積み上げられたがれきの山が見えた。そばを通る漁船よりはるかに高いので、ビルの二、三階建てくらいに相当するだろうか。
案内してくれた地元の人は「あれを見てよ」と言ったきり口をつくんだ。石巻市内を取材していて、ラーメン屋でもどこでも地元の人が一斉にテレビを 見る瞬間がある。がれき処理のニュースだ。遅々と進まない状況が伝えられると「悔しいなあ」「腹立つのう」という言葉をつぶやく。
環境省が21日に発表したところによると、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の被災三県のがれき2253万トンのうち、埋め立てなどの最終処理が済んだのは全体の5%に止まるという。石巻市内で出たがれきの量は同市の一般廃棄物のなんと106年分に相当する。
がれきを他の自治体に運んで処理する「広域処理」で、実際に受け入れが進んでいるのは東京都と山形県に過ぎない。理由は「がれきが放射能で汚染されている」という反対論が根強いためだ。
環境省のHPによると可燃物のがれき処理される対象は放射性セシウムの濃度が480ベクレル/kg以下で、焼却後は0.01ミリシーベルト/年以下になるというのに。さらに沖縄県那覇市で予定されていた青森県から空輸してきた雪を使ってのイベントも反対された。
「雪が放射能に汚染されているのではないか」と、沖縄に自主避難してきた人々から反対したためだ。ちゃんと放射線量を測定し、安 全な値を示しているにも関わらず、「少しでも放射能が測定されているなら中止してほしい」という雰囲気、感情論である。
「放射能汚染されたがれきで我が子を殺す気か」式の反対論を唱える人は、がれきの向こうにも親の気持ちがあることを考えてほしい。
震災で全児童の七割に当たる74人が行方不明、死亡の被害を出した石巻市大川小学校にの周りには、まだ手つかずのがれきが放置され、津波に襲われた校舎は骸をさらしている。その前には鎮魂の慰霊碑と、亡くなった児童たちを模したのだろうか、眠っているような幼子の像が建てられていた。
私が手を合わせていると雪が降ってきた。3月11日も、雪が降っていたという。足下から立ち上がってくる冷気に胴が震える。しかし幼子の像には寒さをしのぐように赤い毛糸の服が巻き付けられ、首にはマフラー、頭にも毛糸の帽子がかぶせられていた。どこも破れたり汚れたりしておらず、真新しい。
地元の人たちがことあるごとに着替えさせているのだろうか。ここで我が子を失った親かもしれない。
私が親なら、この像を我が子のように慈しむだろう。雨が降れば濡れていないか気を遣い、雪が降れば寒くないように服を着せる。晴れた日にはささやかな日光を浴びさせ、誕生日に手を合わせて新しい布で像を撫でるに違いない。
そのたびごとに、親たちは我が子の命を奪った津波の爪痕が残る、がれきの山を通らねばならないのだ。いつまでもそんな想いをさせていいわけがない。