東日本大震災では、福島県で年間一般廃棄物の6年分に相当する438万トン、岩手県で同11年分に相当する476万トン、宮城県では最も多い同19年分の1569万トンのがれきが発生した。
震災がれきの受け入れを表明した東京都や神奈川県などが開く説明会では、住民たちが、そんな不安と不信の声をあげているという。放射能汚染に対する危惧から全国各地の市町村が「受け入れ拒否」をしている。
被災地では、行き場をなくした震災がれきを前に、被災地の住民たちがただ困惑している。民家が2万軒近く全壊した宮城県石巻市。震災から1年が経ついまも、がれきは市内23か所の「仮置き場」に積まれたまま。
同市役所廃棄物対策課の齋藤守さんがいう。
「市の一般ゴミ106年分の量に相当する616万トンのがれきがありますが、自力で処理しきれない分の受け入れ先はまだ決まっていません」
仮置き場のうち22か所は沿岸部などの、人が住んでいない地域に設置されているが、震災後、いちばんはじめに開設した仮置き場だけは生活圏内にあるという。
石巻市中心部から車で10分ほどの総合運動公園予定地につくられた「南境仮置き場」。500m四方のグラウンドに、家屋の廃材、壊れたソファ、家電、鉄くずなど、あらゆる災害ごみが散乱する。がれきの山の高さは建物の2階ほどの約15mに達し、その山のてっぺんで2台のショベルカーがひっきりなしに動いている。
がれき置き場のすぐ東側は石巻商業高校だった。反対の西側には、道路1本も隔てず約70戸からなる仮設住宅団地が隣接していた。
このがれきの影響により、石巻商業高校では、昨年夏ごろに生徒たちの体調に異変が起きた。同校の上総通教頭が明かす。
「夏くらいまでは、3階くらいの高さのがれきが積まれ、校舎がL字型に取り囲まれていました。粉じんがすごかったので、生徒に50枚入りのマスクを配りました。それでも“目がかゆい”“頭が重い”と体調不良を訴える生徒が続々出て、ふたりの生徒が肺炎になったんです」
がれき置き場に隣接する仮設住宅に暮らす女子中学生(13才)も、咳がとまらなくなったという。
「夏場までは、臭いもひどくて、仮設の部屋にハエが大量に発生して大変だったんです。県外の皆さんには被災地支援でたくさん助けてもらって、これ以上求めるのはずうずうしいかもしれないけど、がれきの真横で暮らすのはつらいです」
がれき被害は、石巻日赤病院を訪れる患者の数にも表れている。同病院の矢内勝呼吸器内科部長によると、昨年は呼吸器疾患の患者が激増したという。
「がれきの中には有害物質や細菌があり、これが粉じんとなって浮遊します。いまはだいぶ収まりましたが、震災後2か月間で、ぜんそく発作による入院が例年の4倍に、慢性閉塞性肺疾患の症状が悪化して入院した患者が5~7倍に増えました。がれきがある限り、呼吸器系への影響が生じるリスクが続くでしょう」
石巻市では国立環境研究所の詳細な大気調査が行われ、現在は粉じん量が震災前よりも少ないレベルまで下がっていることが確認された。しかし、石巻商業高校の上総教頭はこう訴える。
「いろいろなかたにご支援いただきましたが、現在でも風が吹けば、がれきから木くずが舞います。毎日、隣にがれきの山があると、安心できるときなんてありませんよ」
※女性セブン2012年3月8日号