「久し振り~?」
「元気だった?」
久々に集まった20人ほどの間から明るい声が上がった。2月18日、宮城県南三陸町志津川にある旭ヶ丘コミュニティセンターでの光景だ。
昨年4月、「川柳を作って、苦境を笑い飛ばしてみてはどうか」という区長の柴田正廣さん(63)の発案で始まった川柳大会は、仮設住宅に移り住む人が増えた7月まで続いた。
このことを報じた昨年の週刊ポスト6月3日号の記事は大きな反響を呼び、この度、記事を読んだ東北大学大学院教育学研究科の長谷川啓三教授が中心となって、200ほどの川柳を集めた句集『震災川柳』が自費出版された。冒頭の光景はそのお披露目会でのものである。
その席には、昨年の記事でも紹介した、
『大津波 みんな流して バカヤロー』
『すっぴんで 外に出る日が 来るなんて』
といった川柳を詠んで一躍有名人となり、「川柳の女王」と称されるようになった須藤春香さん(51)の姿も。今回のお披露目会ではこんな句を詠んだ。
『「ガンバる」の 気持ち浮いたり 沈んだり』
『どこでする 私の復興 なやましい』
須藤さんは南三陸町志津川にあったアパートが津波で流され、今は南三陸町に隣接する登米市の仮設住宅に夫婦で住んでいる。句からは復興への希望と戸惑いが相半ばする複雑な心情が感じられる。
「今も不安な気持ちは続いています。最初の頃は慌ただしいし必死だったので涙を流すどころじゃなかったけど、最近は訳もなく涙が出てくるんです。早く志津川に戻りたいのですが、町が復旧しないことには戻るに戻れません。大震災のことを忘れてはいけないし、忘れられるものでもありませんからね」(須藤さん)
お披露目会で詠まれた川柳には他にもこんな句が。
『流されて がれきの庭に バラが咲く』(佐々木米子さん、79歳)
『ひさい地に 希望の光 見えてきた』(柴田みや子さん、63歳)
もうすぐ“春”が来ることを予感させる作品だ。柴田みや子さんの夫で、区長の柴田正廣さんの句からも平凡でささやかな、しかしかけがえのない日常が戻りつつあることが窺える。
『我が妻の いびきの声に 鼻つまむ』
※週刊ポスト2012年3月9日号