原発事故で巨額の賠償金を支払わなければならなくなった東京電力について国有化論が出ている。それを仕掛けているのが監督官庁の経済産業省だ。東電が原発事故で弱体化した今、「関連会社など天下りポストは1000を下らない」といわれる東電を植民地にするチャンスと映っている。
一方の東電は財務省を味方につけて巻き返しをはかっている。
東電国有化を狙う経産省とは逆に、財務省の勝栄二郎・事務次官と勝俣東電会長は「勝―勝ライン」と呼ばれて国有化阻止の共同戦線を張った。
元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授はこう指摘する。
「政府が東電の経営権を握れば税金で賠償責任を負わされる。消費税値上げを最優先する勝次官は賠償金を全額、電気料金値上げでまかないたいから国有化絶対反対の立場」
メディア工作も激しくなっている。1月下旬、東電の広報担当者が政府べったりの報道姿勢で知られる民放キー局に出向いて「3.11特集に全面協力」を申し出たとされ、東電や財務省いいなりの大新聞は、〈東電「国有化」なぜ経営権取得を急ぐのか〉(読売)、〈活力損なう介入は慎重に〉(産経)と国有化批判まで展開する。
そもそも政府の原発事故賠償スキーム自体、被害者の救済より、「東電の存続」に主眼が置かれた。
「東電が倒産すれば被害者に賠償金を支払う会社がなくなる」という理由で原子力損害賠償機構が東電の賠償資金を肩代わりし、東電と他の電力会社が長期間にわたって返済するという仕組みがつくられ、東電は上場を維持し、株主責任も、東電に融資している銀行の貸し手責任も問われていない。
だが、原発事故の補償にも、電力の安定供給にも東電は必要ない。
経営破綻した日本航空は株価がゼロになり、銀行も債権放棄、社員は給与大幅ダウンと大量解雇、OBも企業年金減額を求められたが、飛行機は飛んでいる。東電も破綻させてから新しい経営体制で再生させても何の問題もないのだ。
元経産官僚の岸博幸・慶応義塾大学教授が指摘する。
「東電の今回の電気料金値上げは燃料費高騰が理由です。東電を守ろうとすれば、今後、賠償費用や除染費用で第2、第3の値上げが求められる。国民負担を最小にするにはむしろ東電を破綻処理して徹底したリストラを行なう方がいい」
原発の補償金は料金値上げにせよ、税金で賄うにせよ、最終的には国民が負担するしかない。しかし、その前に放漫経営を続けた東電の利権を解体し、そこにたかった政治家や官僚、学者らの責任をはっきりさせる必要がある。
※週刊ポスト2012年3月9日号