仮設住宅団地の集会所に、厳しい寒さを吹き飛ばすような笑い声が響く。
「俺は子供の頃からAKBの歌を歌ってた。先生に殴られた時に『あ~痛かった~、あ~痛かった』って」
「野田総理大臣は、立候補の時は立て板に水のようにお話ししましたね、感心しました。ところがいざ総理大臣になってみたら、官僚が書いたのを差し出されて、丸読みですね。あの人はどじょう内閣といわれていますが、河北弁では、差し出すとき『はい、どーじょ』といいます」
ギターをかき鳴らしながら、こんなとぼけた漫談を聞かせているのは、石巻市の観光遊覧船「ナンダコリャ丸」の松尾馬笑船長こと阿部嵩さん(73)である。
阿部さんは津波で自宅と遊覧船4隻のうち2隻を失い、現在は石巻市内の仮設住宅で暮らしている。漫談は、遊覧船の中でも観光客に聞かせていたという。
「お客さんが船酔いしないように、船の中で間をおかずに冗談をいって笑ってもらっていたのが原点でした」(阿部さん)
※週刊ポスト2012年3月9日号