依然として猛威をふるっている、インフルエンザ。2月17日に発表された国立感染症研究所の「インフルエンザ流行レベルマップ」では、日本のほぼすべての地域が、最高レベルの“警報”を示す赤に染まっている。同研究所の最新データでは、患者数はこの時期としては過去10年のなかで最多。
厚生労働省の感染症発生動向調査によると、インフルエンザによる今シーズンの累計受診者数は2月17日時点で、全国で約609万人と推計される。60歳以上の受診者が占める割合は、昨シーズンの約2倍。高齢者施設での集団感染や、死亡例の報告が各地で相次いでいる。
こうした施設などで推奨されているのが、口腔ケアによるインフルエンザの予防だ。その意義と日常生活への取り入れ方について、鶴見大学歯学部の花田信弘教授に話を聞いた。
■ヒトの口中には地球人口より多い菌が!
「ヒトの口の中には、100億個以上の菌が棲んでいます。種類でいうと、400~700種類。そのなかに、“日和見(ひよりみ)菌”と呼ばれるものがいます。日和見菌は、健康なときは、何も悪さはしませんが、病気になると暴れ出し、炎症などを起こします。口の中にそういった菌がウイルスと一緒になって、炎症を拡大させることは、理論的には充分に考えられます」(花田教授・以下「 」内同)
日和見菌のなかには、ウイルスそのものを活性化させたり、インフルエンザによる細菌性肺炎に関与したりするものもある。そのため、こういった菌を除去する口腔ケアが、インフルエンザなどの感染症対策として、有効と考えられているのだ。
「高齢者施設や学校などで、積極的に口腔ケアをしたところ、インフルエンザの患者数が減ったという報告はいくつもあります。また、動物実験レベルですが、ウイルスに感染しただけのマウスは死に至りませんが、日和見菌がいる場合は死んでしまうということもわかっています。
インフルエンザ予防については、現在も研究段階ではありますが、口腔ケアをすれば、除去可能な危険因子を減らすことはできますし、成人病など、さまざまな病気の予防にもつながります。ですから、研究成果を待たずとも、口腔ケアを推奨すべきなのです」
■口腔ケア 2つのメリット
口腔には、腸管と同じように免疫機能がある。そのため、口腔を清潔にすれば、免疫力が向上し、ウイルスに対する防御力アップにつながる。しかし、ここでネックになるのが、“バイオフィルム”の存在。バイオフィルムとは、細菌が凝集してできる生体膜を指す。歯や舌に、フジツボや苔のようなものがびっしりとこびりついているようなイメージだ。
「バイオフィルムがあると、唾液だけしかないときに比べて、口腔内の細菌数が1000倍にも増えてしまいます。インフルエンザなどのウイルスが侵入した場合、バイオフィルム由来の細菌と共同で生体に襲いかかってくることになります。ですから、バイオフィルムを除去することが、口腔ケアの鉄則なのです」
歯のバイオフィルム、いわゆる歯垢は、普段の歯磨きで除去することができる。一方で、舌にできたバイオフィルムはなかなか厄介だ。
「口腔粘膜は、通常、1週間で自然にはがれ落ち、新しい細胞に生まれ変わります。しかし、舌には“味蕾(みらい)”という、味を感じる組織があり、その細胞の生まれ変わりは、1か月と非常に遅いのです。さらに舌には味蕾があるため、表面がデコボコしていて、汚れがたまりやすい。ですから、何もしなければ、舌の上はかなり汚れた状態で、まさに細菌の温床になってしまうのです」
■舌磨きアイテムも続々登場
舌のバイオフィルムを、“舌苔(ぜったい)”という。鏡で舌を見て、白か淡黄色だったり、歯ブラシで軽く舌をこすって、色がついたりしたら、舌苔がたまっている証拠。
「市販の舌用ブラシやクリーナーで、歯の表面を軽くこすると、舌苔は簡単に除去できます。これなら1日3回、歯磨きと同様に行なってかまいません。歯ブラシは毛質が固く、舌を傷つける可能性があるので、舌磨きに使用する場合は、週に数回にとどめたほうがよいでしょう」
線維性の食品、例えば野菜などをよく噛んで食べるのも効果的。食品そのものが舌の汚れを取るとともに、唾液が出て、細菌を洗い流すことができる。また歯磨き、舌磨きをきちんとすることが大前提だが、洗口液や舌磨き用のタブレットを併用すると効果があるという。
インフルエンザの流行は通常3月くらいまでだが、今年はピーク時1か月ほど遅れたことを考慮すると、流行が長引く恐れもある。インフルエンザ対策として、歯磨きだけでなく、普段から手軽にできる舌磨きも強化したい生活習慣のひとつだ。