富士フイルムは「写真洗浄サービス」、資生堂は「無料フェイスマッサージ」、味の素は「栄養セミナー」――企業による被災地への復興支援は大震災から1年経った今も続いている。
企業にとって震災の復興支援は「企業の社会的責任」(CSR=Corporate Social Responsibility)を改めて考えるきっかけになっている。問題となるのは「営利追求」との兼ね合いだ。
企業が利益を追求するのは必然であり、本質的な姿といえる。株主や従業員など、多様なステークホルダーを抱える企業は常に短期的な利益を求められる。その一方で環境や社会への配慮、共存共栄が不可欠になる。
この一見矛盾する命題にどう向き合うかが企業の生命線になりうると指摘するのは、ニッセイ基礎研究所主任研究員の百嶋徹氏である。
「資本主義社会が成熟していき、企業にはより一層誠実さが求められている時代です。現代の消費者、顧客は企業の不正や不透明さに極めて敏感になっている。短期的にリターンがなくとも、社会の課題に取り組む姿勢を持つことが、持続可能な組織作りの重要なポイントになります」
世界的にCSRが盛んに叫ばれるようになったのは米エンロンやワールドコムの粉飾決算(2001~2002年)の頃からだ。ただ、CSRには国ごとに違いがある。
多摩大学大学院教授の田坂広志氏が解説する。
「エンロンの反省からも明らかなように欧米型CSRは『社会に対して悪しきことをしない』ことが社会的責任であるという思想ですが、日本型CSRは『社会に対して良きことを為す』という思想です。日本には古くから、企業は本業を通じて社会に貢献する、という思想が明確にある」
例えば1923年の関東大震災。カルピス創業者の三島海雲は、飲み水を求める人々に氷入りの冷たいカルピスを配って回った。トラックの手配等の代金はすべて三島の私財から投じられた。
1995年の阪神大震災では、ダイエー会長(当時)の中内功氏が倒壊店舗から物資を運びだして配ったのは有名な話だ。
再び百嶋氏。
「古くは渋沢栄一、松下幸之助。日本の産業人には『世のため人のために事業を行なう』という経営思想が根付いてきた。東日本大震災は世界でも類のない悲劇でした。これだけの企業が復旧から復興期に移行した後も支援を継続しているという事実も、また世界に例がないのではないでしょうか。中国や韓国の追い上げなどで、日本経済の先行きが懸念されますが、志の高い日本企業には数字に表われない底力がまだまだある。支援の実態は、そう感じさせるものがあります」
日本の企業が伝統的に培ってきた気質は、着実に脈々と引き継がれている。我々、消費者株主もきちんと見届けていこうではないか。
※週刊ポスト2012年3月9日号