原発事故により、今も代替エネルギーが検討され続けている日本。この1年を振り返ると、自然エネルギーの代表は「風力発電」と「太陽光発電」だった。それらは次世代エネルギーの主力候補になりえるか。
エネルギー問題に精通する安井至・東京大学名誉教授は「日本は風力発電に向かない国」と言い切る。大陸の西端に位置するヨーロッパ各国が大規模に導入するのは、恒常的に偏西風が吹くからだ。山あり谷ありの日本は風向きが安定せず、エネルギー効率が悪すぎる。
例えば、大規模風力発電で使用される2000kWクラスの風車で、原発1基(100万kW)を代替するには約1770基が必要になり、仮に100m間隔で直線に並べると177kmになる。国内の原発分を賄うとなると、日本列島を南北に1往復して風車が並ぶことになる。それでも日本の風況では代替は不可能なのだから非現実的であることは明らかだ。
「太陽光発電」はどうか。ソフトバンクの孫正義・社長は昨年5月、休耕田や耕作放棄地の2割に太陽光パネルを設置すれば、「原発50基分」の発電ができるとぶち上げた。が、現時点で実際に進んでいるのは、北海道苫小牧市など全国10か所に計20万kWのメガソーラー発電所を設置するというもの。すべて完成しても、原発50基分どころか、100万kWの出力を持つ原発1基の5分の1程度にしかならない。
風力と同様に、太陽光パネルも一日の半分の夜は使えず、雨や曇りでもダメで、稼働率はたった12%だ。
「風力や太陽光は、今は規模が小さいからいい。しかし、電力量の10%を占めるようになっただけでも、発電量に『揺らぎ』があるので、送配電施設にダメージを与え、大停電を招く恐れがある」(安井氏)
“自然派”信者だけでなく、新聞やテレビも安易に「ヨーロッパはやっている」というのだが、まず自然環境がまるで違っているうえ、実はドイツなどで風力が活発なのは、風車が止まっても停電しないよう、火力発電で補うだけでなく隣国フランスの原子力で作った電気を大量に輸入しているからなのである。自然エネルギーへの幻想は棄てて、冷静に考え直したほうがいいようだ。
※週刊ポスト2012年3月9日号