ちょっとしたブームになっている「から揚げ」。誰でも食べたことのある庶民的な料理だが、意外にその由来は知られていない。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏がニュースや著名人などに縁のある料理を紹介する「日本全国縁食の旅」。「から揚げ」の「謎」に迫ります。
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「から揚げ」がアガっている。「聖地」と言われる大分県・宇佐や中津のから揚げ専門店や、北海道の「ザンギ」を供する店舗など地方色豊かな、から揚げ店がこの数年都内に続々と進出している。
3月4日の『B級ご当地グルメパラダイス in NOBEOKA』でも出展13団体中、宇佐から揚げ、延岡チキン南蛮、別府とり天と3団体が鶏を揚げている。その人気は女性ファッション誌でも、から揚げ特集が組まれるほどだ。ところがこのから揚げ、いまひとつ起源がはっきりしない。
諸説あるが、大元は奈良時代にさかのぼる。遣唐使を通じて、唐から食べ物を油で揚げる技法が伝わった。そしてその技法が江戸後期~明治時代にかけて、鶏肉を食べる文化とともに広まったという。一般に「唐揚げ」と書かれるのはこのためという説だ。
一方、日本唐揚協会のHPでは「江戸時代初期に中国から伝来した普茶料理では『唐揚げ』」と呼ばれていた」という説も紹介されている。1973年に定められた、当用漢字音訓表で「空」を「から」と読むことができるようになり、「空揚げ」との表記も一般的に使われるようになった。
味わいで現代のから揚げの原型とも言われるのが、愛媛県今治市に伝わる郷土料理「せんざんき」だ。『やきとり天国』(土井中照)によれば、その語源は中華料理で鶏のから揚げを指す「軟炸鶏(エンザーチ)」や「清炸鶏(チンザーチ/センザーチ)」にあるという。
昭和初期、満州から引き揚げた飲食店の店主が現地で教わった料理を供するようになったことから始まったというのだ。千数百kmも離れた北海道発祥のザンギと似た響きなのは、語源が同じ「炸鶏(ザーチー)」から来ているという説が有力だ。
衣をつけた鶏の揚げ物と言えば「竜田揚げ」もある。この料理は百人一首にも選ばれている「ちはやふる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは」という在原業平の歌からとったもので、「龍田川に流れる紅葉の様を思って、龍田揚げとした」(『たべもの語源辞典』/編・清水桂一)と、こんがりと揚がった姿を指しているという。
ちなみに同書にも「から揚げ」という項目は見当たらない。その由来にさまざまな説があるのは、裏返して言えば「から揚げ」が長く生活のなかで親しまれてきたということの証でもある。
3月3日はひな祭りの「桃の節句」だけでなく、「闘鶏の節句」でもある。「唐の玄宗皇帝が幼時に遊戯的に闘鶏させたところ、はしなくも王位をついだ伝説による」(『戦国時代の宮廷生活』/奥野高広)とあるように、強い鶏を献上すれば官職に就けたほど、当時の皇帝も鶏好きだったということのよう。そもそも節句というのは神にごちそうを供え、神と人が共食する行事でもある。
揚げたてを噛むと肉の線維の間から、じゅわぁっと肉汁がしみ出すジューシーさ。誰かと共に食べてもいいし、一人でかぶりつくのもいい。もちろんビールも必要だ!