北朝鮮崩壊論一色に染まる日本にあって、北朝鮮が経済発展の道に進むとの予測を示している専門家は少ない。だが、ジャーナリストの富坂聰氏は、その経済発展の可能性は金正恩体制のスタートでさらに深まりつつあるという。そして、鍵となるのが、拉致問題と引き換えに、日本が北朝鮮の経済発展を支える投資の先頭に立つという選択だという。以下、富坂氏の解説だ。
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2月29日、北京で行われていた米朝協議で大きな進展があったというニュースが世界を駆け巡った。
その中身は、北朝鮮がウラン濃縮活動やミサイル発射実験を停止するというのである。北朝鮮側の報道機関も同様の内容を報じている。もちろん「米朝協議が行われている間」という条件が付けられるなど、不安定な要素が排除されたわけではない。
米側の交渉担当者も同様の見解を示しているのだが、そのことを差し引いても従来北朝鮮が続けてきた頑なな態度が変化しつつあることを予感させるには十分な内容だったのではないだろうか。
私は、北朝鮮崩壊論一色に染まる日本にあって北朝鮮が経済発展の道に進むとの予測を示している数少ないジャーナリストだが、その可能性は金正恩体制のスタートでさらに深まりつつあると感じている。
話題となったAP通信の平壌支局開設の後、APが配信したのは国会副議長のインタビューだったが、そのなかでこの労働党政権のスポークスマンとも目される人物は、北朝鮮の幹部として初めて「経済改革」という言葉に言及しているのだ。
従来北朝鮮は、改革開放政策へと舵を切った中国を「米帝国主義に屈した敗北者」と罵り、自らが中国が行ったような経済改革を口にすることはなかったのである。
これだけでも大きな兆しだが、加えて米朝を囲む国際環境がこれを後押しする体制にあることも大きい。とくに中国は朝鮮半島の安定を第一に考えているため米朝の接近に対しても、むしろこれをサポートするような動きを見せている。
指導者の世代交代はどの国にとってもリーダーの求心力の喪失を意味する。だからこそ国民を納得させるためにそれに代わる要素をみつけなければならなくなるのが宿命だ。その前提で見れば北朝鮮が経済発展をその求心力としようと考えることは自然なことだ。
ただ問題は経済改革へと踏み出した北朝鮮が、政治的にはむしろ厳しく、対外的にも警戒心を強くするとも考えられる点だ。その心配が払しょくされない限り経済発展を決定づける海外の投資家を呼び込むことはできないのである。それを克服するためにも、北朝鮮が大きな決断を見せ、ミャンマーのような変化を対外的に分かりやすくアピールすることが期待されているのだ。
実はこの点には、日本にとって拉致問題を大きく進展させるチャンスがあるのではないかと私は考えるのだ。拉致問題と引き換えに北朝鮮の経済発展を支える投資の先頭に日本が立つ、こういう選択があっても良いのではないだろうか。