中国で、商標権をめぐって海外ブランドが立て続けに裁判を起こしている。こうしたトラブルは日本企業にとって、もはや他人事ではない。中国の企業に商標を“横取り”されないために、何か対策はあるのだろうか。
現在、『iPad』の商標権を主張する中国IT企業と米アップル社が裁判になっているほか、米バスケットボール界のスーパースター、マイケル・ジョーダンが、自身の名前を使った中国スポーツウエアメーカーを提訴しているが、背景には商標に関する両国のルールの違いがある。
商標登録には、先に使ったことを重視する「使用主義」と、先に商標を登録したことを重視する「先願主義(登録主義)」のふたつがあり、アメリカでは使用主義を重視するのに対し、日本と中国も含め、世界で多くの国が先願主義を採用しているのだ。
ファーイースト国際特許事務所の弁理士・平野泰弘さんは、こう解説する。
「誰が正当な権利者であるか判断が非常に難しい使用主義に対して、先願主義は非常に明確です。ただ、誰でも商標登録することができるため、自国で商標登録していたとしても、海外に進出したときに進出先の国ですでに商標登録されていれば、その国の登録者が正当な権利者として認定されることが実際に起こりえるんです」
先月末には、仏エルメスが、自社の中国語名『愛馬仕』とよく似た表記で同じ発音を使った『愛瑪仕』を商標登録した中国の紳士服メーカーに対し異議を申し立てた裁判で、敗訴したことが明らかになったばかり。
こうしたトラブルは、日本企業も悩まされている。経済産業省の調査によると、日本の企業が持つ商標などが、中国で不当に登録された例は、2009年現在で203件にも上るという。佐賀県の「有田焼」や「美濃焼」といったブランド、アニメ『クレヨンしんちゃん』まで中国で不当に登録されており、訴訟の末に中国企業が使うことが認められた。中国進出する日本企業にとって対策は急務だが、平野さんはこう語る。
「会社名やその会社の看板となるような商品、サービス名は“先手必勝”で登録しておくべきです。先に登録されていても後から裁判などで権利を取り戻すことができる可能性はありますが、裁判になれば、費用もかかり、何年も時間がかかってしまう。これまでのように事後対応ではなく、事前対策として商標を登録しておいたほうがいいでしょう」
実際、フェイスブックが中国に進出する際には、60以上の違った名前で申請することを余儀なくされるといわれる。とはいえ、中国の商標の“不法占拠”をこのまま野放しにしておくわけにはいかない。平野さんは最後に、こう指摘した。
「日本や中国なども加盟している商標に関する協定もあり、国際的な共通ルールを作ろうとする動きも出てきています。ただ、各国それぞれの制度の微妙な違いがあり、ルールを共通化するのは実際には難しく、なかなか進んでいないのが現状です。いま日本ができることといえば、中国に対して国際的な圧力をかけ、こうしたルールの整備作りに参加するよう積極的に働きかけていくこと。継続的な働きかけが重要であると思います」