前代未聞の早大ソフトボール部出身のルーキーにメディアは群がった。大嶋匠、22歳。キャンプでは斎藤佑樹、中田翔を差し置いて、一挙手一投足をカメラが追う。新スター誕生か。いやはや、そんなにプロは甘くない。異色ルーキーの「奮闘」を、ノンフィクション・ライターの柳川悠二氏が追う。
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2012年の北海道日本ハムファイターズ・名護キャンプの主役は、背番号「18」でも「6」でもなく、早稲田大学ソフトボール部出身、入団一年目の大嶋匠だった。硬式野球の経験がまるでない新人選手が、斎藤佑樹よりも多くの番記者を引き連れ、新4番候補の中田翔以上の話題を振りまいたのである。
それほどプロ初打席のインパクトは鮮烈だった。2月8日に行われた紅白戦。二軍から腰掛け出場した大嶋は2ボールからのストレートに対し、バックスクリーンに直撃する125mの特大アーチをかけた。
契約金800万円、年俸500万円のドラフト7位入団。異色の経歴を持つ、話題先行のルーキーが、ダイヤの原石であることをたった一打席、わずか一振りで証明してみせたのだ。
ところが。いや、やはりと言うべきか。初打席以降もヒットを重ねていた大嶋が、キャンプ終盤に入り対戦チームの投手陣の状態が上がってくると、ぱったり当たりが止まった。一軍に昇格したものの、変化球への対応に苦しみ、追い込まれたら得意のストレートを簡単に見逃し、三振する場面が目立った。
また課題の守備では、ブルペンで変化球をポロポログラブからこぼすシーンも多く見受けられた。大嶋は初キャンプをこう振り返る。
「序盤は、当たって砕けろ、という感じで結果を求めなかったのが良かった。後半は、結果を求めすぎたのかもしれません」
名護キャンプは終了し、引き続き大嶋の一軍帯同は決定した。しかし日ハムコーチ陣は、大嶋の起用方針および育成方針を確立できていない様子だ。
打撃コーチの渡辺浩司は、「今は調査段階」と話すに止まり、同じく打撃コーチの田中幸雄は「最初の本塁打は良かったし、選球眼もある。ただここにきて、『ん?』と思うことが多い。バットコントロールは柔らかいけど、スイングスピードや身体の回転スピードはまだまだ遅い」と現段階の大嶋には懐疑的な目を向けていた。
週刊ポスト2012年3月16日号