AIJ投資顧問が年金資産2000億円の大半を消失させた問題では、「運の悪い企業の私的年金が、詐欺的な運用会社に引っかかった。でも、私の年金には関係ない」というのが、一般的な受け止め方ではないか。だが、実際には、年金基金の運用担当者が、たまたま詐欺的な投資顧問会社に引っかかったのではないということは覚えておきたい。無知で不勉強だったから騙されたのである。
サラリーマン諸氏は、基金の運用担当者が「投資の素人」だという認識をお持ちだろうか。企業が単独で作る年金基金には、運用担当者はせいぜい経理・財務畑の社員、ひどいところは営業や技術畑の門外漢が就いている。
大きな企業グループで作る年金基金や中小企業の寄り合い所帯の年金基金の場合は、厚労省や旧社会保険庁(現日本年金機構)の天下り官僚や金融機関OBが運用担当者を務めることが多いが、運用経験などなく、これもはっきりいってアマチュアだ。
楽天投信投資顧問の大島和隆・社長が指摘する。
「AIJが公表する事業報告書を見れば、明らかに不可解な点がいくつもあります。運用担当者がきちんと事業状況や運用状況、業務内容を確認していれば、今回のような事態は防げたかもしれません。でも、基金側に必ずしもそれを読み解けるプロフェッショナルがいないのも事実です」
特に天下り官僚の場合、自分はサラリーマンよりもはるかに手厚い公務員年金が受けられる。担当する基金の運用実績は、自分の老後には全く無関係だから、「安全そうな運用先を適当に選んでおけばいい」と思っていることが多い。
いや、もっとひどいケースも多くある。信託銀行や生保、投資顧問会社に籠絡され、手を組んでいる年金担当者もいるからだ。
件のAIJは年金基金の運用担当者を「飲ませ食わせ」の接待漬けにしてカネを集めていたといわれる。 AIJの浅川和彦社長と親交のあった証券マンがこう語る。
「野村證券営業畑出身の浅川社長は客を掴んでおくためなら何でもやる。相手が東京にやって来れば、銀座、赤坂、六本木で接待に連れ回し、帰り際には車も用意する。運用に疑問を持って手を引きたいと申し出た担当者がいれば、徹底的におごり倒していた」
「接待漬け」は何も投資顧問会社に限った話ではなく、信託銀行や生命保険会社も同様である。いくら黙っていても儲かる仕組みといっても、高利回りを謳う投資顧問会社への顧客の流出は避けたい。だから、運用そっちのけで、バブル時代さながらの接待を繰り返しているのだという。
信託銀行OBはこう明かす。
「今は、さすがに向島は目立つから、赤坂などの料亭にコンパニオンを入れて接待しているようだ。そうしておけば、相手は超低利回り、高額の信託報酬にクレームをつけず、こちらのいうままになるというのが実態だ」
その接待費もサラリーマンが払う企業年金の積立金から回り回って出ているのである。
どれだけあなたの企業年金が危険にさらされているか。今すぐにも会社の年金担当者と運用会社を問い質すべきだ。例えば、ポートフォリオと運用実績、信託報酬を尋ねてみればいい。「厚生年金基金規則」によると、資産の構成割合と運用の概況を社員に周知しなければならない(第56条の二)。
開示されないなら、担当者と運用会社の間で何か“特別な関係”があるのではないかと疑ったほうがいい。少なくとも、それらを明かさないまま「実績が悪いから企業年金を引き下げる」なんて話が出てきたら、“AIJへの第一歩”と警戒すべきだ。
※週刊ポスト2012年3月16日号