「揺れを感じたら、まず丈夫な机やテーブルなどの下に身を隠す」(福岡県)、「すばやく火の始末をする」(北海道)、「ガスの元栓を締める」(東京都)。行政のホームページには地震発生時の心得が、こう書かれている。これらを初期行動の“常識”と捉えている読者も多いだろう。しかし、「このマニュアルを鵜呑みにすると危険だ」と警告するのは、防災アドバイザーの山村武彦氏である。
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屋外への避難は、危険を感じた時、やみくもに脱出すればいいというわけではない。2008年の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード=M7.2)の時のことだ。震源域から数十キロ離れた岩手県一関市では、家屋の倒壊がほとんどなかったのに、1人の死者が出た。
不審を抱いた私は現地に足を運んだ。そこはクリーニングと米を扱う商店のすぐ前の道路だった。店にいた60代の男性が、突然の揺れにあわてて前の車道に飛び出し、ちょうど走ってきた2トントラックにひかれ、死亡してしまったのである。
行政の防災マニュアルには、「狭い路地や塀、崖など危険な場所に近づくな」などと書かれてはいるが、車道の危険性についてはほとんど触れられていない。阪神・淡路大震災の時、大阪にいた私はそのまま神戸に向かったが、途中の国道には破損した自動車があちこちに放置されていた。ドライバーに話を聞くと、
「最初はめまいかと思っているうちに、ぐらぐら揺れだした。ブレーキもハンドルも利かなくなった」
と、青ざめた表情で話していた。この証言から分かるように、地震発生時、車はハンドル操作が利かず暴走する危険がある。避難時はできるだけ車道に近づかない方が安全なのだ。
車で走行中の対応も補足しておくと、マニュアルには「揺れを感じた時は、道路の左側に寄せて停車する」などと書かれている。それしか方法がない場合はしかたがないが、主要幹線を走行中であれば、できるだけ横道に逸れるのが鉄則だ。そして広場か駐車場を見つけて停車する。近くに管理者がいた場合は、その人の了承をとる。主要幹線に放置される車が増えれば、その分、道路の幅員が狭くなり緊急車両の走行に支障が出てくるのだ。
※SAPIO2012年3月14日号