東日本大震災から1年が過ぎようとしているが、被災者たちの多くはいまだ寒さをなんとか凌ぐだけの“応急”仮設住宅に耐え忍んでいる。しかし、もっと快適でしかも安価でつくれる仮設住宅があるとすればどうだろう。阪神・淡路大震災以来、国内外で仮設住宅の在り方を検証している、神戸大学工学部教授の塩崎賢明氏が問題点を指摘する。
* * *
東日本大震災に見舞われた東北の被災地には現在、長屋形式の応急プレハブ仮設住宅が5万2000戸完成している。その入居率は9割、つまり、1割の仮設住宅が空き家状態なのである。
建設当初から居住者の不満の声が多い仮設住宅の問題点を指摘しよう。大きく分けてハードの側面とソフトの側面の2点がある。
ハード面での大きな問題は、居住性能である。施工不良による雨漏りや隙間など被災者からの苦情によって、建設後、修復対応に追われるということが発生したが、より根本的な問題は、規格タイプの鉄骨系プレハブ住宅は、断熱性・遮音性が低く、居住性能が非常に不十分なのである。
入居した直後の被災者から、暑くてたまらない、雨の音でテレビも電話も聞こえない、などの不満の声が聴かれ、昨年の夏には熱中症になる入居者が続出した。
その後、冬に向けて外壁に断熱材を貼り付ける追加工事が行なわれたが、居住者の反応は「やらないより、ちょっとはマシ」くらいのものであった。仮設住宅は災害救助法で原則2年とされているが、東北の寒冷地でふた冬を無事に越せるのだろうか。
こうしたことは、今回に始まったことではなく、阪神・淡路大震災以来、何度も経験してきたことである。それが震災から1年が経とうとしているにもかかわらず改善されないままに繰り返されている。
居住性の点では、冬暖かく夏涼しい木造仮設住宅が優れている。今回、岩手県の住田町という地域と福島県は、この木造仮設住宅という新たな取り組みを実施した。
震災以前から地元の杉材を生かした木造建築の取り組みが行なわれてきた住田町は町長のリーダーシップで、いずれ来る大災害に備え、一戸建て木造仮設住宅の設計が完成していた。そして震災発生直後から建設に取りかかったのである。
住田町は内陸部に位置し、大きな被害からは免れていたが、完成した木造仮設住宅には陸前高田などの被災者が入居している。木の香りが漂い、入居者の評価も高い。
福島県では、県が仮設住宅の建設事業を公募、建設予定4000戸の募集に対して、28業者から総数1万6226戸の応募があった。審査の結果、選ばれたもののうち3500戸が木造住宅。さまざまな木造仮設住宅のプロジェクトが県内各地で進められた。
木造仮設住宅の費用は住田町の場合、30平米の住宅が250万円で作られている。また、福島県の場合、一律ではないが、最も費用が高い住宅は、60平米で440万円だという。
それに比してプレハブの仮設住宅は、1戸(26平米)あたり少なくとも400万円の費用が必要である。これは阪神・淡路大震災時の価格である。東日本大震災では、さらに追加工事が行なわれたことを考えれば、500万~600万円と推測される。
福島県や住田町が建設した木造仮設住宅の方が、はるかに質が良く、コストも低いことは歴然としている。
また、プレハブは2年間で撤去してしまい、何も残らない。だが、木造は増設することも可能であるし、半分にすることもできる。つまり、解体移築して恒久住宅として使用することも可能なのだ。
先の住田町では、老朽化した住宅を最終的にはペレットにし、ストーブの燃料にすることも想定している。
以上のように居住性を考えれば、プレハブの仮設住宅である必要はない。仮設住宅=プレハブという発想は、遡れば阪神・淡路大震災にあると言える。
地震は突発的に起きるため、個々の業者が事前に大量の資材を用意しておくということがなかなかできない。数万という単位の仮設住宅を短時間で建設するには業者総がかりとなるため、自治体と社団法人プレハブ建築協会が協定を結んでおり、プレハブ建築協会にほとんど自動的に注文が行くシステムになっている。
時間的にも物理的にも総力を挙げなければならないため、そのような体制をとっているのは理解できるが、それでも、東北の寒い地域に断熱が不十分なものを建てるというのは疑問である。
今後のことを考えれば、夏は暑く、冬は寒いプレハブ応急仮設住宅というワンパターンの思考ではなく、日本の土地柄にあったものを素早く供給できる仕組みを、今から丁寧に考えていかねばならない。
※SAPIO2012年3月14日号